リキはつわりで苦しんでいた。何も食べられず、横になっているしかなかった。突然、千味子(基の母)が訪ねてきて、保存食や栄養剤などを置いていってくれたが、それは単なる「善意」からではなかった。リキの「値踏み」に来たのだ。
結果は「不合格」。リキのことを最低な女と見下した千味子。しかし、その最低の女リキにお願いしたのもまた自分であることに、罪悪感と嫌悪感を同時に感じる千味子であった。
産むか、産まないか
家出していた悠子が帰ってきた。素直に喜ぶ基だったが、ことはそう簡単には運ばなかった。「自分だけで秘密を守る自信がない」と言う悠子。基は意味が分からなかったが…。
二人の男に送ったメッセージ
つわりに苦しむリキは、ベッドの中から日高とダイキにそれぞれメッセージを送った。
「日高さん、今頃ぬくぬく寝てる?妊娠しちゃった。今8週目。日高さんの子かも。認知してくれる?」
「ダイキ、先生になれた?子供ができたよ、今8週目。ダイキの子かも。認知してくれる?」
お、それ、二人に言うんだ
どうして、女だけがこんなに苦しまなければならないんだろう。リキは吐き気と闘いながら、心の中でつぶやいていた。
なぜ、女だけが…?
確かに、つわりの苦しさは男には分からないもんね。
悠子、基にすべてを打ち明ける
「誰にも言わない」と約束した悠子だったが、リキのお腹の子供の父親が基以外にあと二人いることを、基に話してしまった。
あーあ、だから約束なんてしなければよかったのに。
悠子の話をきき、ただただ驚く基。自分の子じゃなければ引き取れないと言う。
悠子は、子供を殺すことだけはNOだと言う。
基は、自分のDNAを残すために代理出産を大金を払って契約した。だから、他人の子だったらもちろん引き取る気はない。
だが悠子は、授かった子供の命を奪うことだけはするべきではないと言う。と同時に、リキはシングルマザーになる気がない。
では、いったいどうすれば?基は混乱する。
悠子は、「こうなったのは私たちの責任でもある。生まれた子供は誰の子であってもうちが引き取る」と引き下がらなかった。
悠子はさらに続けた。「あなたとリキさんが結婚すればいい。そうすれば、リキさんはお金に困ることはない。私は、生まれてくる子に幸せになってほしいだけ。」
悠子は結婚指輪を外して、部屋を出ていった。
とにかく生まれてくるんでしょうか、しかも双子が。誰が育てるんでしょうか。リキが育てる気がないとしたら…?
リキのつわりが終わる
朝がやってきた。窓から差し込む日差しを浴びながら、今日はなんだか調子がいいなと感じるリキ。
久しぶりに朝食を作ってみた。トーストの匂いをおそるおそるかぎ、ひとくちかじってみる。うん、いける!
リキのつわりが終わった瞬間だ。
このように、つわりとは不思議なもので、自分の意志とは関係なく、始まって終わる。人それぞれで、短い人もいれば長い人もいる。誰にも分からないところが、人体の不思議というものだ。
日高の反応
リキは日高に電話をした。事態を知った日高はショックを受け、どうしたらいいか分からないようす。認知も、俺次第かなと、理解に苦しむことを言う。
それどころか、なぜか電話で男の本能がむき出しになり…「こいつはダメだ」とリキは電話を切った。
責任を取らないタイプの男である。もちろん認知はしないだろう。
ダイキの反応
続いて、ダイキに電話をした。
ダイキは與邦国では先生の職がなく、今は那覇で、東京にいたころの仕事(訳アリセラピスト)に戻ってしまった。
ダイキの反応は、ある意味ポジティブだった。特に、リキから「双子を妊娠」と聞いたとき、飛び上がらんばかりに喜んでいた。
「最高じゃん!どうにかなるよ、こっちにおいでよ!青い海、青い空があるよ!」
「あんた、それだけじゃ妻子養えないでしょ。」
「どうにかなるさ」
いやいや、どうにもならないよと、リキは心の中でつぶやいた。
ただ、ダイキは「必ず産んで」と言った。「お腹の子だって、リキちゃんを選んだんだよ。リキちゃんがいいってさ。」
ダイキのポジティブさは天下一品だ。いつもハイテンションなダイキ。奔放な彼だが、言うことはまともだ。
基、リキに会いに行く
基はリキを待っていた。きちんと話すためだ。基の心も、まだ決まっていなかった。
父親が誰かはっきりと分からないというリキ。じゃあ、最初からやり直してくれという基。
このまま妊娠を続けると、すでに入金されている500万を返金しなければならないのか?それはもう無理だ。
では、500万返金しなくてもいいと言われれば、自分で産んで育てるのか?それも無理だ。
結局は、「お金」の問題、「命」の問題。そこに悩みが集結している。堂々めぐりだ。
時間はあまり残されていない。「草桶さんが決めてください」と言い残し、リキは去って行った。
預金通帳の残高
リキは家に帰って、預金通帳の残高を確認していた。
前金として500万がすでに振り込まれている。しかし、すでに100万以上使ってしまった。
「やり直すと言えば、あと500万暮らせる。でも、これであと何年暮らせる?」
お金は水物(みずもの)と言われるとおり、お金っていうのはどんどん消えていく。リキは焦っていた。そんな時、電話が鳴った。リリコだった。
リリコの家で
リリコからの提案
リリコは、自分の仕事を手伝ってほしいとリキにお願いしていたのだった。仕事が立て込んでいるので、早くこっちに来てほしいと言うリリコの申し出を受け、リキはリリコの元へ行くことになた。
リリコの家は、思いのほか邸宅だった。実家が病院だったせいもあり、家も広く、資金も食べるのには困らない生活だった。
なんとうらやましい…
すでにリクの部屋も用意されていた。日当たりがよく、気持ちのよい部屋だ。
自分の荷物をこの部屋に運び込んだリキは、南向きの窓から差し込む光に、凍っていた心が溶けていくような、温かいものを感じた。
さらに、食堂に案内される。グリーンが豊富で、広く、こちらもまた癒される空間である。
うわー、とあっけにとられるリキ。こんな場所に来たのは生まれた始めてだと言わんばかりだ。
奥のほうの調理場から、女性がやさしく声をかけた。「リキさんね。お待ちしていました。」
「こちら、杉本さん(竹内都子)、うちの家政婦さん。もう30年以上も働いてもらってるの。」
カウンターにはおいしそうなお惣菜が並んでいる。食堂にはいつでも来て食べていいのよ、と、杉本さん。
私もぜひ住まわせてください!掃除くらいならできるかも…
そこへ男性が登場。「この人はね、たかしおじさん。私の実の叔父さんなの。」
こう見えても、たかしおじさんは昔官僚だった。
「悪い男に引っかかったんだろ?訴えたいときには、いつでも力になるからね。」
家政婦の杉本もたかしおじさんも、「リキはシングルマザー」だとリリコから聞いていたのだ。
ここにいるのは全員独身。皆、赤ちゃんを楽しみにしているようだ。
うん、こういう家族も確かにアリかも。
リキを訪ねてきた悠子
リキがリリコの元で生活するようになって2か月が経った。突然、悠子が訪ねてきた。リキのお腹はそろそろ目立ち始めている。
「リキさん、元気だった?」
「はい。この頃、お腹の子供が動くんですよ。そういえば、この前産婦人科で、DVDをもらいました。お腹の子供が映っているみたいです。」
「まだ見てないの?」
「見て、ないです…」
二人のやりとりを聞いていたリリコが口をはさむ。
「あんたね」と悠子に向かって、「産むか産まないか分からない子供のDVD、見るわけないじゃないの。」
リリコは続ける。
「だいたいね、約束破ってもっくんにしゃべって。あんた、自分が処刑人になりたくなくて、もっくん使っただけじゃないの?」
「そんなつもりは…」
「結果的にそうなってるんだよ。」突き放すようにリリコは言った。
リキは、基に会って、どうするか決めてくれと言い、今は彼からの答えを待っているところだと悠子に伝えた。
時間ばかりが過ぎていく。この場に及んでも、何も自分で決めることができない悠子だった。
基の答え
基のところに、DVDが送られてきた。胎児が映っている動画だ。それはあまりにも感激的なものだった。
まだ小さく、目鼻立ちも分からないが、確かに人間の形をした、胎児。それが二人も。お互いに向き合い、慈しみあうように存在している。
もといは、何度も何度も動画を見返した。そして、ついに決心した。
リキに電話した基は言った。
「草桶です。赤ちゃんの動画、見ました。」
「双子は、男の子と女の子だそうです。」
「動画、何度も何度も見ました。産んでください。」
リキは、少し膨らんできたお腹をそっとなでた。
リキの預金が400万を切っているのを見て、私はあることを思い出しました。それを記事したので、あわせてお読みください。お金の恐ろしさを書いた記事です。
【燕は戻ってこない】第8話 感想・レビュー
このドラマが始まったとき、登場人物の中でとびぬけて「ちょっと、おかしいんじゃないか」と思ったのがリリコでした。奔放であけすけなリリコは人の心に土足でズカズカと入り込むような、そんな配慮の無さがありました。
ネットでもリリコへの不満をぶちまける人が多かったように感じますが、この回はどうでしょう。圧倒的にリリコの言い分に説得力があります。なぜでしょう?
その理由は、「一貫性」です。とんでもない意見でも、彼女は終始一貫しています。
「自分の幸せのために、人に迷惑をかけてはいけない」というポリシーです。
自分の意思を貫きとおすのは、難しいことです。時として、人は他人の意見に流され、大衆の流れに飲み込まれていくものです。それが楽だし、自然にそちらを選択してしまうのです。
悠子が良い例です。一見、誰が見ても「まともな良い人」に見えます。しかし、彼女は自分で重要なことは何ひとつ決めません。心で思っていてもぐっと我慢し、最終的な結論は人頼みです。それが良い、悪いというわけではありません。一般的に、悠子タイプの人間で世の中はあふれているのです。
自分の意見に責任を持つ、というのは並々ならぬ覚悟があります。
リリコは、他から理解できない行動と言動で人を不愉快にさせることは多々ありますが、生き方は一貫していますし、意見もぶれることはありません。
今回は、リリコの圧勝です。最初はリリコに嫌悪感を持っていた視聴者も(私を含めて)、今はリリコをリスペクトしているのではないでしょうか。
あんなふうに、一本芯の通った女性になりたいものです。
どうでもいいけど、私はリリコの家の居候になりたいです。