2024年7月、Netflixで配信されると同時にトップを独走し続けている、ドラマ「地面師」。詐欺師たちの犯罪なのだが、なぜか応援してしまうのはなぜだろう。
今回は、騙される側に回ってしまった不動産会社社長の真木と、真木を演じる駿河太郎に迫る。
マイクホームズはなぜ騙されたのか
マイクホームズの真木は、なぜ10億もの金をだまし取られたのか。理由はいくつも存在する。
圧倒的に、力関係で負けていた
マイクホームズは、投資用マンションの開発・建築を専門とする、新進の不動産会社。社長の真木(駿河太郎)は、いつかは大手デベロッパーと肩を並べるほど会社を大きく成長させたいと思っている。
その焦りもあって、キャバクラでブローカーから恵比寿の土地を持ち掛けられた際、その案件を疑うどころか、喜んで商談に応じてしまう。
取引相手は、海千山千のピエール瀧。柄の悪いおっちゃんで、大阪弁で失礼なことも平気でポンポン言う。相手の真木を見下すような態度で、「こっちはあんたに売らなくても、ほしい会社はいくらでもあるんだよ」と匂わせる。
ピエールに対して、真木はどこまでも平身低頭。「この物件をぜひお売りいただきたい」と、焦る気持ちが態度に滲み出ている。
本来、取引は平等で、どちらが上というわけでもない。どちらかと言えば、金を出す方がふんぞり返っていていいのだが、真木は若く、これほど大きな案件で成功したこともなく、経験が浅い。
経験が浅くとも堂々とするべきなのだが、真木は内心びくびくしていた。ピエールは、「こいつは簡単だ」と内心ほくそ笑んでいたことだろう。
自分から1億上乗せしてしまった
他の業者に抜け駆けされてはたまらないと思った真木は、独断で「1億上乗せして、10億で買いたい」と、その場で申し出てしまった。
大きな会社では、1億上乗せするために稟議書を通さなければならないので、時間がかかる。「自分の会社ならば、社長の判断で即決できます」と言い切った真木社長。
それが強みだと思っていた真木だが、実際にはそれが弱みと出てしまった。同席する部下が静止しようとしても、ピエールに断言してしまった手前、後には引けない。
ここで、真木の事実上の負けが確定した。
本取引で「本人確認」が甘かった
最終取引の段階で、ようやく地主(なりすまし)に会うことができた。マイクホームズの司法書士も、若いながらがんばるのだが、拓海(綾野剛)の天才的なアドリブで、なりすましの面談も成功した。
途中、何回か怪しい部分があったが、綾野剛、ピエール瀧、そして場外から参戦しているハリソン山中(豊川悦治)の戦略に負けてしまった。
もう少し粘れば、騙されることもなかったのだが…ここでもやはり、ピエール瀧の「もうええでしょう!」と、半ば恫喝とも言える態度で、マイクホームズは佐々木の爺さんを本人と認めることとなったのである。
そもそも、本契約の前に、現地に視察に行ったとき、内見(古屋の中を見させてもらうこと)を強引にすればよかったのだが、それもピエール瀧にうまいこと騙されてしまった。そのことは、下記の記事に詳しく書いてあるのでお読みください。
真木社長を演じるのは、駿河太郎
ここで、この情けない若社長を演じたのは、駿河太郎だ。鶴瓶の息子ということは、ご存じだろうか。似ていなくもないが、駿河太郎を見ただけで、鶴瓶を思い出すほど似ているわけでもない。
なかなか良い役者で、存在感がありながら、出すぎることもない。今回の社長役も、駿河以外に誰が演じることができようかと思うほど、見事な騙されっぷりであった。
私が初めて駿河を素晴らしい役者だと思ったのは、映画「孤狼の血」を観たときだった。冒頭部分から衝撃的なシーンが繰り広げられるドラマだが、そこで出ているのが駿河太郎だ。このシーンの詳細を述べることは、思いっきりネタバレになるし、これから観る人の楽しみが半減するので、やめておく。
ただ、ひとつ言えるのは、あの冒頭のシーンはずっと頭から消えず、ある意味トラウマになっている。
視聴者は「すごい!」「大変だろう」「かわいそうだ」と思うだけだが、演じる駿河太郎はどれだけの苦労があったろうか。役者さんは大変だな、これだけ大変な場面を演じるのだから、相当ギャラをもらわないと割に合わないな、自分には絶対無理だと思ったものだ。
駿河太郎は、うまい具合に小物感が出ていて、最後は負けてしまう(やられてしまう)ことが多いですね。なかなか貴重な役者さんです。演技力が素晴らしい!
なんとなく、鶴瓶の息子と聞くと、二世俳優の楽な道をまっしぐら、と思いがちだが、駿河太郎は我が道を行っている。どれほど大変な役でも引き受ける覚悟がある。
この先、駿河太郎が何十年経って、年老いてもなお、評価される俳優になることは間違いない。
ということで、筆者は駿河太郎のファンなのです。