火星のクレーターを再現する実験は、うまくいっているはずだった。あと少しで成功が見えてきたところに、いくつもの難題が待ち構えていた。
大きな成功の前には、大きな壁が立ちはだかる。科学部の部員たちは、壁を乗り越えることができるだろうか。
岳人の悪友
岳人が以前つるんでいた不良たちが、街で岳人を見かけた。朴(写真右)は「岳人、楽しそうだな」と、現在はすっかり定時制のまじめな高校生になった岳人を認めている。
だが、左の男・三浦は真面目になった岳人がどうしても許せなかった。岳人には、前のように自分たちとつるんで欲しかったのだ。以前は一緒に悪さをした岳人が離れてしまった悔しさもあるのだろう。
実験が終わり、アンジェラや佳純と帰る岳人を待ち伏せした三浦は、岳人に言いがかりをつける。おびえるアンジェラと佳純。岳人はガンとして譲らず、三浦は朴に止められて引き下がった。
三浦は悪いやつらとつるんでいることを、朴は知っていた。朴が止めても、三浦は聞く耳を持たなかった。
大学での研究
藤竹は大学で自分の専門を研究していた。藤竹を尊敬する鷲見(すみ)は藤竹に研究について質問したり、自分の論文を見てほしいと言う。
鷲見は今度の学会で発表するつもりだと打ち明けた。藤竹も、自分の高校の科学部も学会に発表すると言い、鷲見は驚いていた。
「定時制ですよね?」
「関係ないよ」
配慮申請
岳人は、ディスクレシアのための「読み書き」の教室に通っていた。岳人の成長は著しく、以前と比べて文字が分かるようになっていた。
そんなとき、「配慮申請」という大学受験の方法があることを知った。
岳人のような障害を持つ受験生にも、いろいろな面で配慮する受験方法があるのだ。
岳人は、自分が大学へ行くことなど考えたこともなかったが、配慮申請と言う方法には興味を持った。
伊之瀬先生、JAXAへ来る
井ノ瀬先生は、NASAエイムズ研究センターのノア・ラングレー主任研究員を連れてJAXAへ見学に来た。案内するのはもちろん相澤だ。
「ここは観光地ですか?」と見とがめた石神は、井ノ瀬の連れている外国人がこの道の権威であることを知り、態度を豹変させた。
と共に、井ノ瀬が何を考えているのか、不安で仕方がなかったようだ。
実験室が壊された
アンジェラと佳純が科学室にいると、不良3人が入ってきた。一人は三浦だ。岳人を探しに来たのだが、いないと分かると腹いせに実験室の道具をメチャクチャに壊し始めた。
急いで駆け付けた藤竹に、「ダチに会いにきたんだよ」と言い残して去っていった。
騒ぎを聞いて駆け付けた岳人と長嶺。怒りに震える岳人に、「まだあいつらとつきあいがあるのか」とたしなめる長嶺。二人の間も最悪な雰囲気だ。
要と佳純
要は、遅くまで佳純のデータ解析に付き合ってあげていた。と同時に、科学部に不穏な雰囲気が漂っているのを感じていた。
心配する要だったが、自分は佳純を手伝うことしかできない。もどかしい気持ちでもあったが、気持ちは半分科学部だった。
佳純「あ!もう9時だ」
要「大丈夫だよ。いざとなったらまた柳田さん(岳人のこと)に作業着借りればいいから」
夜遅い時間に、全日制の生徒がいることは許されていなかった。岳人の作業着を借りると、要も十分定時制の学生に見えるから不思議なものだ。
要も、作業着を着て校舎を出入りするのが、意外と気に入っていたのだ。
要のさりげない優しさが、今の佳純には大きな支えとなっていた。
うまくいかない科学部
アンジェラが、足を実験のひもにひっかけてしまい、そのために実験の箱が壊れてしまった。
謝るアンジェラ。怒る岳人。アンジェラを心配しない岳人に怒る長嶺。
みんな、毎晩遅くまで実験を行い、学校の勉強と日中の仕事で、誰しも疲労が限界に達していた。
このままでは科学部は空中分解だ。実験は一時停止となってしまった。学会への提出まで、あと1か月しかないというのに。
岳人の夢は無謀なのか?
科学部では、岳人が一人、壊れた実験器具を修理していた。
長嶺は、藤竹と二人で話がしたいと申し出た。
長嶺は、岳人のことが心配で仕方がなかった。息子のようにかわいとも思っていた。
そんな岳人は先日、発射台を作りながらつぶやいた。「研究者って、ずっとこういうことやってられるんだろうなあ」
そんな岳人を、長嶺は一人心配していた。
「人生は、思うようにはならない。思っているよりもずっと困難だ。柳田くんは、今、もっと上の道があるのではと考え始めている。だが、エリートさんたちは、自分とは異質の世界から上がってきた者を排除する。柳田君には、そんな夢を見させて、期待させていいのだろうか。次にまた挫折を味わったら、どこまで落ちていくか分からん」
人生経験豊かな長嶺の意見を聞き、藤竹は考え込むしかなかった。
「本当にいいのかね。彼をこれ以上その気にさせて」
夢を見ること
藤竹が科学部に向かうと、岳人が机の上で寝ていた。
岳人は、タバコをやめた話をした。時給はちっとも上がらず、少しでも貯金をしたくて、タバコを止めることにした。
「あんたは、何かあきらめたことがあるのか?」という岳人の問いかけに、「いっぱいありますよ」と藤竹。
岳人は続ける。
「今まで、学校でも仕事でもうまくいったことなど一度もない。だから、あきらめることなんて慣れてると思ってた。」
頑張ったことをあきらめるのは、辛いということ、それを岳人はまた思い出していた。
「簡単にあきらめることができるのは、マジじゃねえからだ。あんたに会って、字がどんどん読めるようになって、勉強すればするほどわかるようになって。実験も楽しくて仕方ねえ。
それで俺、変に夢見ちまったんだ。あんたみたいになれんじゃねえかって。」
岳人の目は涙でいっぱいだった。
「結局、何もできねえ。何も変われてねえ。実験だって中途半端なままだ。でも、仕方ねえ。全部自業自得だ」
「柳田くん、実験やめる気つもりですか?」
柳田は泣きながら部屋を出ていった。
忘れられない顔
柳田は授業にも来なくなった。
藤竹は、誰もいない科学部で、壊れた破片を拾っていた。目の前に浮かんだ、一人の顔。どうしても忘れられない顔が、藤竹にはあった。
研究室にいた頃の、あの彼の顔。あの眼差し。藤竹は、どうしても忘れられない過去があった。
藤竹の過去とは?未来を嘱望されていた藤竹が、石神研究室を去った理由は?
そして、科学部はどうなってしまうのだろう。岳人は昔の悪い連中と関係を切れるのだろうか。今のところ、どれもお先真っ暗だ。
少しでも光が見えますように。そして、「あきらめることは、マジじゃねえってことだ」という言葉は、まるで自分に向けられた言葉のように、ズシリと胸に響いた。
がんばろう。