海ちゃんの家で夏休みの1週間一緒に住む約束をした夏。自分の両親には、まだ海のことを話していないのが気がかりだった。
髪の毛やって!
海は水希に髪の毛をまとめてもらっていた。朝ごはんを食べながらのいつものパターンだ。
水希:今日は時間がないから、ボンボンつけていい?
と、ヘアーゴムを見せる。
海:いいよ。ママは?ママは可愛くしなくていいの?
水希:時間が…時間とお金がないから。ごめん、こんな話、聞きたくないよね。そうだ!今度、原宿のカリスマ美容師に、二人で可愛くしてもらおう!
水希は自分の美容院にかけるお金も節約していた。
弥生の髪の毛で練習
夏は、海ちゃんの髪の毛をかわいくまとめてあげる練習をしなければいけなかった。
それを知った弥生は、自分の髪の毛で練習したら?と言ってみる。
練習しながら、弥生は小さい頃を思いだしていた。弥生は自分の両親が嫌いだったことを。
まだ月岡家の家族に海のことを言っていないと聞いた弥生は「それも練習しとく?」と言った。
上司の藤井
夏は、実家の家族に自分には子供がいることを告白することに、不安を覚えていた。会社の上司、藤井に子供ができたときの両親の反応を聞いてみた。
藤井に「お子さんが出来たとき、ご両親はどうでしたか?」
「すごい喜んでたよ」と藤井は言った。愛妻弁当を食べながら。
転校、やだ
海は、転校するかもしれないと分かっていた。
でも、転校しないと無理だということも、分かっていた。
夏くんの家から通うことも、無理だと分かっていた。
夏休みの間にみんなで考えよう、と朱音は海に言った。みんなで考えよう。家族みんなで。
海ちゃんの好きなもの
弥生は、夏に海ちゃんの好きなものをいろいろ聞いてもらった。
「すみっこぐらし」
弥生は本屋で「すみっこぐらし」の本を買った。
弥生は弥生なりに、自分と海の距離を少しでも縮めようとしていた。
夏が実家にやってくる
月岡家は大騒ぎだった。夏がやってくる日だ。ご馳走を作っていた。
夏はきっと、結婚の報告をしにやってくるに決まってる。
夏がやってきた。夏はなかなか話したがらない。みんなは誤解してる。
夏:その…子供がいる。
家族は弥生との間に子供ができたと大きな誤解をしていた。みんな大喜びだ。予定日はいつ?
夏:弥生さんの子じゃない。
え?どういうこと?
夏は説明を続けた。
夏:少し前に葬式があって、亡くなったのが、大学のとき付き合っていた人で、その人が大学のころ、子供を産んでたって知って…今、7歳。
一同、シーン
母:何も知らなかったの?彼女から、何も聞いてなかったの?
夏は正直に全部を話した。
母は、隠したことに腹をたてていた。隠せるって、思ってたんでしょ、と。
母は複雑な気持ちだった。命が失われなかったこと、でも、それを隠していたこと。
海ちゃん。母は、孫が欲しいなと思ってたとこ。連れてきて、会いたい。
父も、弟も、会いたいと言ってくれた。
月岡家はいい家族だ。
みんなでコロッケをつついた。
水希の死因
水希の死因は、子宮頸がんだった。それも知らなかった。母は、そんな夏の話をじっくり、優しく聞いていた。
母は、離婚して再婚するまでの間、それが一番大変だったと言った。お金と時間がないと、気持ちまでどんどんすり減っていった。美容院にも行けなかった。時間もお金もなくて。
それは水希も同じだった。お金と時間がないと、自分のために美容院に行くのは罪悪感を感じるのだった。
水希ちゃんが誰にどれくらい助けてもらったか知らないけど、知ろうとしたほうがいいよ、そう言った。
夏:お父さんは?
母:お風呂じゃない?
夏:そっちじゃなくて。
母:どっかで元気にしてるでしょ。
夏は黙っていた。
津野君
海は図書館に来た。津野君に会いにきた。津野は嬉しかった。
今度、おばあちゃんの家に一緒に泊まりに来る、と伝えた。
津野君は、もうオレがいなくても大丈夫だよ、と言った。
水希が生きていた頃は、津野も図書館の女性も、水希のそばで支えていた。でも、水希が亡くなってからは急に夏が現れ、どうしても納得できなかった。
海、月岡家へ行く
「こんにちは。南雲夏です。」海は月岡家を初めて訪問し、きちんと挨拶した。
母、父、そして弟の大和。みんな突然できた家族を暖かく迎えた。
大和は海ちゃんとすぐに仲良くなった。
次の土日、海と弥生も会うことになった。
そんな時、朱音は一人で家にいた。寂しかった。夏が月岡家に行ってしまったことが、少し寂しかった。
朱音は家で一人、物思いにふけっていた。その時、月岡の母から朱音に電話があり、挨拶が遅れて申し訳ない、今度ご挨拶にうかがいます、そんな大人の常識的な挨拶を電話でやりとりしながら、朱音の気持ちは少し安心できた。よい人たちのようで、よかった。
一方で、弥生もまた寂しさを感じていた。弥生は一人、家で夕飯を作っていた。誰も食べてくれる夕飯ほどつまらないものはない、と思っていただろう。
いよいよ、夏と住む
夏は海と一緒に住むため、南雲家に行った。使うのは、水希が使っていた部屋だ。
夏は、そっと部屋へ入った。
海は、ママ無しで寝る練習をしていた。でも、やっぱりママと一緒に寝たかった。
ママ、いなくなっちゃんだもん。でも、今いるんだから、一緒に寝たほうがいいよね。
辛い会話だった。
海は青いイルカとママと一緒に寝た。
その水希が寝ていたベッドがあった。水希の物がたくさんあった。生きていた頃のままになっていた。
夏はベッドにそっと横たわった。水希と同じ目線で天井を見ていた。
ママが元気なくなってから、ちょっとだけここで一緒に寝てたんだ。その前はね、図書館の近くの家で二人暮らし。
夏は、今度その家に連れていってもらうと約束した。
お風呂から上がって、夏は海の髪の毛をドライヤーで乾かしてあげていた。朱音は、そんな二人を暖かく見守っていた。
弥生の寂しさ
第5話では、弥生の寂しさもクローズアップされていた。
夏と海がどんどん親しくなり、父と娘という立ち位置も確率しつつあった。それを感じた弥生は、自分は何者でもないことを実感していた。
美容院で、隣の女性客が、美容師と話すのを何気なく聞いていると、今日は子供が離婚した元夫と会っている、できるだけ早く終わらせて子供に会いたい、そんな話をしていた。
弥生は、自分には血のつながりが何もないのだと、あらためて思った。夏と海、南雲家、月岡家。そのつながりの外に自分はいる。そんな疎外感を、あらためて感じる弥生だった。
津野君の寂しさ
津野もまた、やりきれぬ寂しさと悔しさを感じていた。
津野も、そして同僚である司書の女性も、水希が生きている間は、仕事や海のことでいろいろサポートしていた。おそらく、この二人が一番水希の苦労を分かっていた。
ところが、水希が生きている間は何も助けず、亡くなったと同時に現れた夏に、海を奪われようとしている。
自分は水希と結婚していたわけでもない。海ちゃんの父でもなく、南雲家とは姻戚関係ではない。つまり、外野である。
親戚でなければ、何もできない自分。あんなに親しかったのに。
どうにもやりきれない寂しさを、津野は感じていた。
第5話 感想
今の世の中、いろいろな家族のあり方があります。血のつながりなんて、あまり関係ないんじゃないか、と思ったりもします。
ですが、いざ何かをする場面になって、「自分はよそ者だ」と感じることもすごく多いものです。これは、大人になっていろいろ経験を積めば積むほど実感することでもあります。
海ちゃんは「なんで津野君はうちに来ないの?夏くんも来るんだよ」「なんで弥生ちゃんは一緒に来ないの?」と、素直な気持ちで聞いてきます。
本当は、海のように「好きならば一緒にいればいい」と大人も行動できればいいのですが。
これからの「海のはじまり」では、「ハッピー」だけではない、家族や友人に生まれる「ひずみ」がどんどんクローズアップされていくことでしょう。