長嶺が4人目の部員となり、いよいよ科学部は本格的に活動することになった。目標を決めよう、どうせなら大きい目標を、ということで「学会発表」というのはどうでしょう?と藤竹。
「学会発表」?唖然とするみんなに藤竹が付け加えた。「高校生部門というのがあります」
「高校生部門」ならできるかも?
藤竹から「学会発表」と言われて、4人はとまどった。
長嶺「できるわけがない」(長年の経験から否定的になっている)
岳人「そんなのやってみなきゃ分かんねえだろう」(やる気になっている)
アンジェラ「そうだよ、やってみよう!」(ポジティブ思考)
佳純(心の中で)「どうすればできるかな」(常に冷静で客観的、解決方法を考える)
とりあえず、高校生の科学発表とはどのようなものなのか、科学部全員で見学に行くことになった。
佳純の姉の高校へ
発表場所は、なんと佳純の姉が通っている高校だ。発表会場に入っていくと、各高校がそれぞれのテーマで研究結果を発表している。難しいテーマが多く、科学部の皆は理解することもできず、質問することすら困難だった。
そんな中、佳純は藤竹が誰かから声をかけられているのを見かける。なんでも、藤竹の論文にいたく感激した人らしい。
まわりの高校はどれも優秀校で、年齢がバラバラな岳人たちを珍しいモノを見るような目つきだ。岳人たちが「定時制高校」だと聞くと、嘲笑された。これが「優秀な高校の皆さんの実情」だと知り、暗澹たる思いになった。
佳純が家に帰ると、円佳が部屋に入ってきた。円佳は自分の高校で佳純たちを見かけたのだった。佳純が科学部に入り、他の高校の研究の様子を見に行ったと知り、「あんたたちの高校とはレベルが違いすぎて参考にならないでしょう。どうせ新しいことを始めてもすぐやめるんだし」と言い放つ。
佳純は「そんなことない」と言うのがやっとだった。
佳純はネットで藤竹の論文発表のページを見ていた。
コンテストに出てみる?
藤竹が、昨日の高校の発表の感想を尋ねると、科学部の皆は「学会発表なんて無理」「どうせ恥をかくだけだ」「意味が分からなかった」と消極的な意見。
ただ、佳純だけは「私は、やってみたい」と言った。「もう、できない言い訳を探すのはいやだ」
みんなは、学会発表の前に、まずはコンテストに出てみようということになった。コンテストならば、エントリーするだけで参加資格が得られる。学会発表よりもハードルが低い。
しかし、エントリーまであと2週間しかない。テーマを決めなければいけない。岳人たちは焦った。
これまでの実験を考えると、クレーターの研究はどうか?色砂を使ったり、発射速度を細かく変えてみてはどうだろうか。
そんな意見を出し合い、それぞれの得意分野を受け持つことにした。そんな話をしながら夜の街を皆で歩いていると、同じクラスの麻衣が男とモメているのを見つけた。駆け付けると、男は麻衣の赤ちゃんが乗っているベビーカーをつかんで放そうとしない。アンジェラが警察に通報しようとすると、男は捨て台詞を残して立ち去った。
男は、麻衣の元旦那。男は麻衣から親権を取り戻そうとして、子どもとの面会日にもなかなか返そうとしなかった。その裏には義母が絡んでいるらしい。
クレーターの実験
クレーターの実験はうまくいっていた。色砂を使うと、クレーターが出来たときもきれいで見栄えがする。だが、もう少しクレーターの様子をはっきり観察してみたい。砂だとすぐに崩れてしまう。
クレーターの形を残したまま、どうやって崩さずに観察できるだろうか?
「固めればいいんじゃない?ゼリーみたいに」
アンジェラの提案に、「それ、面白いかもです」と藤竹がうなずいた。
麻衣、科学部を見に来る
何を思ったか、麻衣が科学部の扉を開けた。
「なんの実験?」「クレーターの内部構造を可視化してるんです」
アンジェラの提案を受けて、砂でできたクレーターを固まらせて、カステラのようにナイフで切ることに成功していた。
クレーターを作った後に、お湯で溶かした寒天を流し込み、三日かけて固まらせたものだ。
部員たちはこれらのデータをまとめてレポートに仕上げた。即席にしてはなかなかよくできている、そう藤竹は言って、コンテストにエントリーするための書類をまとめあげた。
エントリーできない?
藤竹は教頭に呼ばれていた。
科学部のエントリーを申し込んだが、先方からエントリーできないと通知が来たそうだ。
理由は「定時制高校の参加の前例がない」ということだった。それだけの理由で突き返されてしまったのだ。
科学部だけではなかった。これまでも、定時制というだけで、他の部活もはじかれてきたのだ。定時制だとエントリーもできないのか。部員たちはがっくりと肩を落とし、理不尽な対応に納得できなかった。
「惑星科学会には参加できます」と藤竹。「それは、確認しました」
惑星科学会とは、正式な学会だ。つまり、高校生のコンテストにはエントリーできないが、もっと大きな学会発表には参加する資格がある、ということだ。
藤竹、同期の相澤に会いに行く
藤竹は、大学の同期の相澤に会いに行った。相澤は大学で講義をしていた。
相澤は藤竹の将来を心配していた。やりたい実験があると聞いていた相澤は、「それができているのか?」と尋ねた。
藤竹も相澤も、高校の時は実験三昧で、コンテストのために必死で研究していた。そのコンテストのエントリーを「定時制高校」という理由で拒否されたことを、藤竹は打ち明けた。
相澤は「世の中、そういうもんだ。でも、そうじゃいけないとは思ってる。ああ、そういや今年から科学政策促進委員会の委員長に、石神教授が就任したって聞いたな」
夏休みの天体観測
科学部員はやることがなかった。エントリーを拒否され、自分たちが丸ごと拒否された感覚に陥っていた。
藤竹が入ってきた。「今、夏休みなんで、せっかくですから天体観測でもしませんか?流星群が来てるんですよ」
「面白そうじゃない?ねえ!」いつもそう言って仲間を鼓舞するのはアンジェラの得意技だ。
というわけで、科学部で学校に一泊し、流星群を見ることにした。
いよいよその夜。アンジェラは美味しいものをたくさん作ってきた。木内は、自分の天体望遠鏡を持ち込んだ。学校の屋上は、ちょっとした遠足気分だ。
やったもん勝ち
屋上のドアが開いて、仕事を終えた麻衣が入ってきた。娘の恵麻(えま)は実家の母親に預けてきた。
先日のエントリーは、定時制ということで門前払いをくった話を聞いた恵麻。みんなが落ち込んでいる前で、はっきりと言った。
「私なんか、こんな格好してベビーカーを連れてるだけで白い目で見られまくってる。シングルマザーでかわいそう、こんなに小さい頃から保育園に預けてかわいそう、とかね。でも、そう言ってる人間は、誰も助けてくれない。自分たちなんか、とか、どうせ定時制だから、なんて決めつけてるのは、結局は自分なんだよ。
だから、自分のやりたいことをやればいい。やったもん勝ちなんだよ!」
麻衣のそんな言葉に、部員たちはどれだけ励まされたことだろう。
「この宙(そら)には、まだまだ分からないことがたくさんあります。分からないことだらけです」藤竹が星を見上げて言った。
「てことはさ、オレたちにも無限の可能性があるってことだよな!」と岳人。
そうだよね、とみんなもうなずく。
火星を作ってみませんか
科学室に、佳純が資料を作って持ってきた。火星には独特のクレーターの形がある。月にはない、花びらのようなクレーターが、まわりにできている。
これを再現して、教室で火星を作ってみないか、ということだ。
難しそうだが、やってみようということになった。これでテーマが決まった。
藤竹は言った。「この実験は、失敗はあり得ませんよ。だって、まだ誰もやったことがないから」
難関の石神教授
石神教授は、「優秀な人材や学校を特別に指定し、財源を支出し、日本から海外に優秀な脳を流出させないための仕組みを作らねばならない」というのが持論だった。
石神は、高校の科学コンテストに定時制高校からのエントリーがあったことを知らされる。「もちろん断ったんでしょうね」と言う石神に、「その高校の教師から猛抗議があった」と聞く。
教師の名前を聞いたとたん、石神の表情は曇った。「藤竹…」
いったいこの二人にどんな過去があったのだろう。