弱井と雨宮は、「さざ波屋」というラーメン店がお気に入りだ。好きなものはとことん続ける弱井は、毎日のようにラーメンを食べ続けている。それにつきあう雨宮。
今回の主人公は、さざ波屋の店長「玄」さんだ。
「疲れとがんばり」がピークに達した玄さん
人気ラーメン店「さざ波屋」。店長の「玄」は人気者で働き者だ。誰よりも早く店に来て仕込みを始め、従業員よりも遅くまで店内に残り、後片付けをし、深夜に帰宅する毎日だ。
疲れはたまっていたが、玄はがんばっていた。二人暮らしの妹「楓」のためにも、がんばらなければいけない。
そんな時、さざ波屋の本店から営業マンが来店した。金のことばかり言う、嫌みなやつだ。「この店は立地がいいからね」と、店の売り上げが良いのを立地のせいだと決めつけている。
それどころか、「売り上げ5%上げろ。コストをかけすぎ。人件費が多い」と言われる。コストはギリギリまで切り詰めている。従業員も、これ以上減らしたら店が回らなくなる。だが、本店からの命令は絶対だ。
玄は悩み、考え込み、ふさぎ込むようになった。毎日深夜に帰宅し、倒れこむように眠るだけだ。だんだん食欲も無くなってきた。玄は、もう何日もまともに食べていなかった。
「診療内科」にかかる玄
妹の楓は兄を心配していた。楓は、思い切って玄に提案してみた。「お医者さんに行ってみたら?」
楓に言われた玄は、「心療内科」に行き、先生に症状を説明した。
また出た!竹財輝之助!
玄は医者から「うつの症状ですね」と診断され、睡眠薬と抗うつ剤を処方された。さっそく玄は薬を飲み始めた。
弱井がさざ波屋に行くと、いつも元気に働いている店長の姿が見えなかった。従業員に聞くと、「店長はうつと診断された」と教えてくれた。弱井が精神科医であることは知っていたが、逆に「悪いのでは」と気を使い、別のクリニックに行ったのだった。
従業員「なにせうちの会社、ノルマがハンパなくて。店長が鬱になるの、これで4人目なんです」
ハイテンションになった玄
楓が帰宅すると、玄がラーメン屋の従業員と電話をしていた。その声がやけに明るく、大声で、いつもの玄とはまるで違う様相を見せていた。驚く楓をよそに、玄は元気百倍といった感じで店に出かけていった。
鼻歌を歌う玄。調子がめちゃくちゃいいようだ。酔っ払ったような不自然な明るさだ。はたから見ていても、玄がおかしいのはすぐわかる。その様子を弱井がじっと見ていた。八百屋のおじさんもあっけに取られて見ている。
まさに「薬を飲んでハイになった」状態だった。
楓が帰宅すると、なんと玄は女を連れ込んでいた。楓に見つかってもなんとも思わない玄。
悲しみでいっぱいの楓だったが、「何かがおかしい」と感じ始めていた。病院を変えよう。弱井先生のところに行こう。楓は、まず自分ひとりで弱井先生を訪ねることにした。
「双極症」と診断された玄
玄の症状を楓から聞き、診断した弱井は、「おそらく、その症状は双極症です」と答えた。
双極症とは、そう状態と鬱(うつ)状態が交互にくる精神疾患だ。いわば躁鬱(そううつ)病。
「双極症」は、正しく診断されるまで8年かかるとも言われる。躁(そう)状態になると、患者は「うつ」が治ったと思ってしまう。自分がそう状態の時は、調子がよいので、病気だとはとても思えないのでとてもやっかいだ。人との関係性も途絶え、最後には自殺する可能性もある。
楓と玄は、幼くして両親を亡くし、二人は助け合い、寄り添い合って生きてきた。楓にとって、玄は無くてはならない大切な兄なのだ。
楓と玄はは親戚の家に引き取られた。兄は柔道を始めた。柔道ではよい成績をおさめ、これからどんどん優勝して高みを目指せるはずだった。だが玄は高校を中退して、楓を大学まで行かせてくれた。
そんな努力家でやさしい兄を、楓はどうしても助けたかった。
「どうしたら兄を救えますか?」楓は弱井にすがるように尋ねた。
「そう状態のときはトラブルを起こしやすい。何かあったらすぐに連絡してください」と、弱井は楓に言った。
玄、暴れて家を飛び出す
楓が帰宅すると、玄が何か探し物をしていた。何を探しているのかと楓が尋ねると、玄がいきなり暴れ出して、大声を出して家を飛び出していった。
楓が弱井に電話をすると、弱井は「玄さんのパソコンはありますか?スマホと同期しているなら、履歴から足取りを終えるかもしれない」と答えた。
さらに弱井は「新星病院の君島部長」に連絡を取るように、雨宮に指示した。君島は弱井が昔から懇意にしている、信頼できる精神科医である。弱井はこのときすでに、玄を新星病院に入院させることを考えていた。
履歴から、玄は「富士山行き」のバスに乗ろうとしていたことが分かった。
大急ぎでバスターミナルに向かった弱井と楓。玄は途方にくれてベンチに座っていた。
柔道の師匠登場
いきなり目の前に現れた楓と弱井を見て、玄は驚き、うろたえ、興奮し、自分を抑えることができなかった。そんなとき、1人の男が玄の前に立つ。
柔道の師匠、仙川(小林薫)だった。
「そう状態になると人の言うことを聞かなくなるから、玄が一番尊敬している人を呼んでくれ」と弱井が楓に頼んでおいたのだ。
「オレは大丈夫、オレは元気だ、病気じゃない」と言い張る玄に、「そんなに自信があるなら、病院へ行って、オレは健康ですと証明すればいいだろう。オレがついていってやるから」と仙川は語り掛けた。
「保護入院が必要です」
新星病院では、君島医師が玄を待っていてくれた。さっそく診断を受けた玄に、君島は結果を告げた。
「あなたは双極症です。あなたには医療保護入院が必要です」
このまま一人にしておくと、何をするか分からない。本人のためにも、家族のためにも、入院してじっくり治療することが大事なのだ。
「オレは病気じゃない、病気じゃない!」ベッドに寝かされながら怒鳴る玄。
玄は鎮静剤を注射された。玄は自分でも分かっていた。何か自分の中でおかしなことがおこっているということを。でも、どうしようもなかった。そんな気持ちがグルグル玄の頭を駆け巡っていた。玄は眠りについた。
おかしな人間がたくさんいる!オレは違う!
玄が朝目を覚ますと、いつもと違うことに気が付いた。そうだ、ここは病院だったのだ。オレは暴れて人に迷惑をかけたから、入院させられたのだ。
病院の廊下を歩くと、おかしな人間がたくさんいる。自分の頭を叩きながらブツブツ言う男。歌を歌いながら踊る女。いったいここは何なのか?玄は思いながら診察室へ入った。
君島医師と弱井医師が二人座っていた。
「双極症は、そう状態が激しくなるほど、鬱(うつ)も深刻になります。気分の波を小さくしなければなりません。玄さんは1か月ほど入院する必要があります。」
治療には投薬のほか、生活のリズムを整えること、病気を理解すること、この3本柱が必要です。
玄は、双極症について分かりやすく書いてあるパンフレットを何冊か渡された。だが、パラパラとめくってみただけで、読もうとはしなかった。
病院の食堂にて
この病院には、入院している患者が大勢いた。食事は、みんなで食堂で一緒に食べることになっている。
玄がトレーに食事を乗せ、椅子に座ろうとすると女が奇声を発して何かを訴えている。驚く玄に、患者の一人が「この人は、ここは自分の席だって言ってるんですよ」と教えてくれた。
まったくここはおかしな人間が集まっている、と玄は心の中で思った。
他にも、「ストラックアウトやりませんか?」とか「柔道をやろう」などと誘われたが、すべて断った。玄は自分の殻に閉じこもっていた。
「オレはあんな奴らとは違う」と、玄は心の中で思っていた。
玄さん復活のサポートチーム結成
弱井は、岩国さんという女性を呼んでいた。彼女は「精神保健福祉士」である。
精神保健福祉士とは、精神的に何かしらの障害や病を抱える人々の社会復帰など様々な立場からサポートをする職業
これからは、弱井、君島医師、岩国、雨宮が集まって、1つのチームとして玄さんをサポートすることになった。
楓や弱井だけでは、玄を支え、見守っていくことはできない。多くの人の助けが必要だった。
玄はラーメン屋に戻りたい
玄は楓に「ラーメンに関する本を持ってくれ」と頼んだ。玄の頭の中は、まだラーメンのことでいっぱいだった。一日も早くこの病気を治して、またさざ波屋でラーメンを作りたかった。
「今はゆっくり休んだほうが…」楓が言う言葉は、玄の耳には入ってこないようだ。
兄が一日も早くラーメン屋に戻りたい気持ちは痛いほどわかる。だが、「もうラーメン屋はできないだろう」と楓は内心思っていた。
楓は、会社の先輩からプロポーズされたと雨宮に打ち明けた。先輩には、兄の病気のことは伝えていない。
「玄さんの病気のことを知った上で結婚を決意してくれたら、何があっても乗り越えていけるんじゃないですか?」と雨宮が言った。
入院中の玄の様子を見て、弱井はあらためて玄に声をかけた。
「そう状態の自分のことは、自分では分からないと思ってください。双極症は、治らない病気ではありません。コントロールしながら社会生活を送っている人はいっぱいいます。
玄さんはファイターです。苦しい思いをしてきた玄さんだからこそ、道を切り開くことができるのではないでしょうか。だからこそ、病気を理解してほしいのです。」
病院の患者を見下していた玄
ある日、玄が食堂でラーメンの本を読んでいると、「こんな本、読んでもどうしようもないよ」と患者に言われる。ほっといてくれ!と怒る玄。
そんな玄の前に、1人の男性が座った。もう3回目の入院になるというこの男性、元は商社の管理職だったと打ち明けた。
「すごいですね!」と、玄。
男性は続けた。「そう状態になるとね、気が大きくなってしまうんだ。金遣いも荒くなって、浮気もしたり。おかげで離婚した。この病気はね、まわりの人達との関係も奪ってしまうんだよね。ああ、でもね、そのうちコントロールできるようになるからね、焦らずにね」
玄は笑いながら、「ええ、まあ、ああなったわけじゃないですし」と、歌って踊る女性を指さして言った。
男性は玄に憐みの目を向けて「そうか、君はまだ自分の病気を受け入れられないんだね。だって、ここの人たちのことを見下しているでしょう。自分も、ここの人たちと同じ仲間だって認められないんだよね」と言い残し、残念そうに立ち去った。
呆然とする玄に、いつもの男性が声をかけてきた。「ストラックアウト、よかったら一緒にやりませんか?」
男性からボールを受け取った玄は、ストラックアウトをやってみることにした。
1か月後
確かに、玄は他の患者のことを気味悪がったり、避けたりしていた。完全におかしいと思っていたからだ。だが、考えてみれば自分も皆と同じだったのだ。
玄はそれから双極症のパンフレットを読み込み、食堂では、女性が奇声を発すると「ここはこの人の席なんですよ」と教えてあげる立場に立っていた。
そんな玄を見ながら、君島医師は玄と会話をした。
玄「入院して1か月。食事や睡眠はよくとれています。自分の病気のことはまだよく理解していませんが…」
君島「玄さんは行動がだいぶ落ち着いてきたので、退院してはどうですか?そのかわり、ただし、今後はひだまりクリニックに行って、弱井に診てもらってください」と言われる。
玄、退院する
久しぶりに出た外の世界。楓が迎えに来た。病院の外の空気、やはり気持ちがよい。
ひだまりクリニックを訪れた玄に、弱井は「まだ、不安定な部分はあると思います。毎日の気分を点数化するといいですよ」と表づくりを勧められた。
「フラット(よい状態)が50点。動きすぎたり、焦りすぎたりすると、加点。活動できなかったり、落ち込んだりしたら減点。目指すは50点です。ゆっくり低空飛行でいきましょう。」
「ゆっくり低空飛行で」と言われた玄は、焦った。「いや、オレ早く店に出たいんですよ、いつ頃出られますか?」
「まずは生活のリズムを整えることが先です。気分の安定には、この表づくりが投薬より効果があると言われてるんですよ」
玄は「ふーん」と思いながらも、表づくりには気乗りがしなかった。
「生活訓練施設 リベラ」に通う
精神保健福祉士の岩国は、玄に「生活訓練施設 リベラ」へ通うように勧めた。
施設に通うことで生活のリズムを取り戻し、様々なプログラムをこなすことで、気持ちをコントロールすることができるようになる。さらに、通いながら、入院する前の自分自身を探ってみることができる。
施設には、うつ、発達障害、双極症の人たちが多く通っている。
「最初は週に2日くらいから」と言われたが、「一日も早くラーメン店に戻りたいので、じゃあ、3日から」と玄が希望した。
玄は焦っていた。早く現場に戻りたかった。さざ波屋の店長の自分を、一日も早く取り戻したかった。
毎日施設に通う玄
玄は、張り切って施設に通い始めた。
訓練で、隣の男性から「さざ波屋のラーメン、大好きです。おいしいですよね」と言われ、大喜びする玄。
玄は調子が良かった。だが、その調子の良さは「そう状態」への入り口だった。家に帰っても、施設の課題に一所懸命取り組む玄を見て、楓は心配になった。「急に動きすぎてはいけない」と、弱井からも言われていた。
そんな楓の心配をよそに、玄は早く現役に復帰したくて、毎日施設に通うようになっていた。点数表はつけていなかった。
動きすぎの玄を心配する弱井
弱井は、クリニックで玄と対峙していた。玄が毎日のように施設に通っていることは知っていた。いつも一緒に来る楓が、今日はいなかった。なぜなのかと尋ねると、玄が答えた。
「楓には幸せになってもらいたい。あいつを巻き込むわけにはいかないんです。だから、これからオレは一人でやりたい。やらなければいけないんです」
弱井は、玄に優しく言葉をかけた。
「玄さんはファイターです。強いですよね。人を頼ることができるのも、強さなのではないでしょうか。僕たちは、玄さんと一緒のチームなんですよ、もちろん、楓さんも」
ラーメン屋に立ち寄った玄が帰宅すると…
クリニックからの帰り道、玄はそっとさざ波屋をのぞいていた。玄に気づいた従業員が駆け寄ってきた。
「玄さん!元気そうじゃないですか!いつから戻れます?」
「あと少しだ」
ふと見ると、他のメンバーも玄さんを見て笑顔になっている。
「お客さんも、玄さんのラーメン食べたいって、みんな言ってます」
そう言われて、嬉しそうに照れる玄。
玄が帰宅すると、さざ波屋本店から、一通の手紙が届いていた。
楓が帰宅すると、兄の姿がどこにも見えない。テーブルには、たった一枚の紙が置いてあった。「解雇通知書」だった。楓は家を飛び出した。
柔道場に立ち寄った玄
玄は、あてもなく夜の道をさまよっていた。どうしてこうなってしまったのか。何が悪かったのか。
玄は、弱井から「何がきっかけで調子を崩したのか、それを探ってみてください」と言われたことを思い出した。
ふと気が付くと、玄は柔道場の前に立っていた。扉をあけると、みな柔道の稽古にいそしんでいた。
入ってきた玄を、師匠の仙川は黙って受け入れた。
仙川「何があった?」
玄「道を、失いました」
仙川「道か。お前の道とはなんだ?」
玄「自分はこれまで家庭や学歴がないことをバカにされたくなくて、ずっとがんばってきました。でも、オレはもう…」
仙川「オレにとっては、お前がエリートだろうが中卒だろうが、どうでもいいことだ。
覚えてるか?都大会準決勝の大将戦。お前は抑え込まれて、誰もがお前は負けたと思っていた。
だが、最後の最後に立ち上がり、そして、逆転の一本背負い。あれこそが、お前だろ」
迎えに来た楓
師匠の言葉を胸にしまい、丁寧にお辞儀をして玄は柔道場を出た。そこで待っていたのは楓だった。
歩きながら、楓は会社の先輩からプロポーズされたことを玄に話した。玄の病気のことは報告済みだ。それでも全く構わない、家族になるんだから、と先輩は暖かく楓に言ってくれた。
楓は続けた。
「お兄ちゃんは、さざ波屋で行列ができるラーメンを作ってたよね。とっても美味しいラーメンを。でもね、小さいころ、お兄ちゃんが小さなアパートで手にやけどしながら作ってくれたインスタントラーメン。あれが私にとって一番のご馳走なんだ。お兄ちゃん、今までありがとう!これからは、私にもお兄ちゃんを守らせて」
玄の目から、涙がひと筋、ふた筋と流れ落ちた。
がんばらない戦い方
玄は、施設に行くのを週3回に減らした。戦い方を変えようと思ったのだ。
玄は弱井に言った。「がんばらない戦い方もあるのかなって。これが、今の戦い方なんだって」
玄はまだあきらめたわけではなかった。また元のように働きたい。
「ファイト!」雨宮は大声で叫んだ。みんなびっくりして大笑いした。
本格的に精神科の仕事、やってみないか?
それからしばらくしたある日。雨宮は楓の結婚式に呼ばれた。
雨宮「とっても素敵な結婚式でしたよ」
弱井「旦那さん、どんな人だった?」
雨宮「パンダみたいな人でした」
弱井「パンダ?」
雨宮「もうね、全身が優しさでできてるって感じで!」
雨宮の表現に、思わず笑ってしまう弱井。
弱井は、今後毎週水曜日の午後は、新星病院の手伝いをするることになったと告げた。「雨宮さんも一緒にという条件で。」
雨宮「え?」
弱井「治療は、診察室の中だけでは終わりません。患者さんの生きる支えとなるチームを作りたいんです。そのチームに入ってくれませんか?」
雨宮「私が?」
弱井「雨宮さん、本気で精神医療に取り組んでみませんか?」
これまで何をやっても長続きしなかった雨宮。このクリニックに来たのも、つい最近だ。そんな雨宮に、精神科の仕事は続けられるのだろうか。
次回も楽しみだ。
「シュリンク 精神科医ヨワイ」第2回 感想
実は、私の主人のおばさんが、極度の「うつ病」と診断されていた。毎月心療内科に通い、薬をもらっていた。だが、一向によくなる気配がなかった。
良いときも悪いときも、我が家に一日中電話をかけてきた。私は姑と同居していたが、おばさんは姑の妹だった。
私が嫁に入ると、私にも電話がかかってきた。一回の電話が3時間ぐらい続き、それが一日に2回か3回である。ほとほと疲れ果てていた。ほぼ一日中電話である。
おばさんは全然良くならなかった。良いときははしゃぎ、悪いときは怒鳴り散らす。薬が強かったのか、時には痴ほうのようになり、歯を磨きながらよだれを垂らすようになった(そのまま眠ってしまうことも)。
おばさんは、そんな状態を何十年も続けながら、亡くなった。最後は施設に入ったが、施設の介護職員にまで当たり散らす日々だったという。
今思うと、おばさんは双極症だったのかもしれない。確かに、おばさんはまわりとの人間関係を壊していった。最後は、ただ一人の姉である義母も愛想をつかして絶縁した。ひとり娘からも絶縁された。孤独のうちに亡くなっていったのだ。
あのとき、弱井先生に出会っていれば…
そんなことを思ってしまう。精神の病は、身体の「ここが悪い」と目に見える病気ではないので、診断も治療も難しいだろう。だからこそ、良い先生に出会えるかどうかは、運なのかもしれない。
だが、病気になったら「運」ではすまされない。一人でも多く、弱井先生のような素晴らしい先生が世の中に誕生するよう、願ってやまない。