2024年7月にNetflixで世界独占配信されたドラマ「地面師たち」。配信と同時に国内4週連続1位、世界でも2位と快進撃を続けている。 原作者は新庄耕(しんじょう こう)さんは現在41歳。今まさに、ノリに乗った気鋭の作家である。そんな新庄さんの新刊は「地面師たち」の続編「地面師たち ファイナル・ベッツ」だ。
この記事では、「地面師たち ファイナル・ベッツ」の内容と、作者新庄耕の作品にかけた意気込みを解説する。
「地面師たち ファイナル・ベッツ」あらすじ
Netflixドラマ「地面師たち」を観た人間は、大興奮ののちに「地面師ロス」の心境となる。当然ながらネットでは早くも「地面師たちの続きはあるの?いつから?」と、続編のドラマを望む声で持ち切りである。
ここでは、ざっと「ネタバレ」にならないあらすじを紹介しよう。
新庄耕(しんじょうこう)1983年、 京都府生まれ。 慶應義塾大学環境情報学部卒。
’12年 「狭小邸宅」 で第36回すばる文学賞を受賞。 他の著書に『ニューカルマ』『サーラレーオ』 『地面師たち』 『夏が破れる』 などがある。
シンガポールのカジノで全財産を失い、途方にくれる元Jリーガーの稲田。 その一部始終を見ていた地面師 ハリソン山中は、借金を肩代わりする代わりに統合型リゾート(IR)誘致を見込んだ苫小牧の不動産詐欺のメンバーに加わらないかと稲田を誘う。 日本に戻った稲田は仲間とともに、 詐欺の準備を始めるが、 IR計画が白紙になる。
一方、警視庁捜査二課の佐藤サクラは、逃亡中のハリソン山中が北海道を訪れていたという情報をつかむ。
サッカーファンとしては、元Jリーガーが詐欺を行う設定が気に入りませんが…
新庄耕:「地面師たち」とその続編
77年、大手ハウスメーカーの積水ハウスが不動産詐欺に遭い、 55億5千万円を騙し取られた。世間に衝撃を与えたこの事件、騙したのは土地の所有者に成り済まして多額の代金を騙し取る不動産詐欺師、いわゆる地面師たちだった。
この事件に触発された新庄耕さんがクライムノベル 『地面師たち』は『小説すばる』2019年1月号 – 10月号に連載され、同年12月、集英社から刊行。第23回大藪春彦賞候補になった。
新庄さんの新作「地面師たち ファイナル・ベッツ」は「地面師たち」の続編ではあるが、小説を読む限りでは「地面師たち」を観ていない人でも200%楽しめる豪華エンターテイメントだ。
新庄のデビュー作は『狭小邸宅』という不動産を扱った小説だ。不動産つながりということで書いた「地面師たち」だったが、調べていくうちに、地面師たちの手法は驚くほどアナログだということを知り、興味を持ったそうだ。
この一作で精魂尽き果てたと思っていたところ、書きあがった小説を発表した直後から映像化の依頼が続々舞い込んできた。同時に、編集部から「続編」の依頼があった。
前作はハリソン山中がシンガポールにいるところで終わったので、シンガポールから始めることになる。シンガポール
といえばカジノだな、ということになり、考えていたところ、ちょうど日本ではカジノの収益を見込んだIRの整備を検討する自治体が東京、大阪、北海道とあがっていた。
取材をしている途中で、北海道知事がIR誘致を断念することになった。だが、IRを当てにして法外な値段で苫小牧の土地を買った投資会社がいて、どうやら騙されたらしいなんて話も聞こえてきた。
苫小牧IR計画は実際にあった。「ハードロック」というアメリカ最大手のIR事業者が狙っていたようだ。
一方、専門家の間には地球温暖化で北極海の氷が溶けたら、ヨーロッパに最短で行ける北極海航路ができ釧路が重要な寄港地になるとの話もある。
北極海の氷が溶けたら日本沈没なんじゃ…?
今回の作品の被害者は外国人だが、この設定にできたのも、日本は外国人が土地を買える世界でも数少ない国だからだった。
え?ほかの国は外国人が土地を買えないんですか?日本もそうすればいいのに。
地面師の仕事ってすごいアナログ
こういった事実を踏まえて、 200億円超えの不動産詐欺を働くスリリングな物語が生まれた。
新庄は語る。
「社会の電子化が進みセキュリティはどんどん厳しくなっているのに、地面師たちの手口は土地所有者に成り済ますというアナログなもの。騙される背景には土地神話が根強いこともあるのでしょうが、人間の意識が変わらない限り、 続くのかもしれません。 どれだけセキュリティ技術が進化しても、最後は人なんでしょうね」
アナログだからこそ楽しめる「不動産」ドラマ
地面師のみならず、不動産業界はITから取り残されている業界である。私も不動産取引を10回ばかり行った人間だが、バブルのころから2024年の現在まで、基本的に「人と人」の世界であることに変わりはない。
「地面師たち」のドラマを観た人はお分かりだと思うが、土地取引をするために、詐欺案件でなくても、必要な書類やハンコ、身分証があきれるほど多い。
「ハンコを無くそう」という動きが世の中にはあるが、不動産に関わる人たちは「ハンコを無くすなんて無理」だと確信している。
ハンコを無くすなら、印鑑登録という制度も無くす必要があるし、書類に押す「割り印」「捨て印」などの慣習をやめることはできるのだろうか。
業界の慣習というものは、なかなか変わらない。間違いや詐欺を防ぐためにも必要なハンコや書類、身分証なのだが、それすら見事に偽造されたら元も子もない。(これを見事にやってのけるのがニンベン師の仕事である)
マイナンバーカードはアパートの一室で作成可能
今後は、マイナンバーカードの普及とともに、詐欺行為が加速していくと思われる。
「マイナカード偽造「1枚5分、技術や準備は不要」中国籍の女証言…本人確認に目視のみ多く悪用拡大」
という「読売新聞オンライン」の記事にもあるように、マイナカードの偽造は簡単にできるそうだ。この記事によると、本国から作業用のパソコンとプリンターが自宅に届き、個人情報がメールで送られてくる。作業は偽のICチップが埋め込まれた白いカードの表裏に個人情報のデータを印刷するだけ。
もっと悪いことに、マイナカードの真偽を判別する機械が、マイナカードを使われる店舗には置かれておらず、ほぼノーマークでなりすましの人物に使われてしまうことだ。
マイナカードには、本物か偽物かを判別するためにICチップが入っているが、そのチップの情報を読み取って確認する機器の導入は大手銀行など一部に限られる。
現在は、主に偽のマイナカードはスマホ購入のために利用されているようだが、他人名義のスマホがあれば、悪だくみは容易に実現するだろう。
少々脱線してしまったが、不動産取引詐欺は大胆な手口と「アナログ」な手作業ゆえの、面白さがある。クリックひとつでなんでも片付く世の中は、逆に恐ろしいものだ。
「地面師たち ファイナル・ベッツ」では、どんな詐欺行為が観られるだろうか。フィクションであることは重々承知だが、次こそはハリソン山中が捕まってほしいと心から望むところだ。