千葉県市川市の特別養護老人ホームに入所する89歳の女性が職員による入浴介助中に全身にやけどをし、搬送先の病院で死亡しました。
なぜこのような痛ましい事故が起きてしまうのでしょうか。過去の事例をもとに検証します。
なぜ湯が高温だと分からなかったのか?
千葉県市川市の特別養護老人ホーム「なごみ」で、入浴の介護中に、89歳の女性が全身やけどで搬送され、死亡するという痛ましい事件が起きました。
なぜ入浴中にやけどをするのか、健康な人なら全く想像がつきませんが、介護施設ではあり得ることです。
原因は、「湯の温度を手を入れて確かめなかったため」です。素手でお湯の温度を確かめるという簡単なことをしていなかったことが、全身やけどにつながったと考えられます。
そんなことが本当にあるのかと思いますが、肘を入れて温度を測ったり(肘では正しい温度は測れない)、手袋をしたままお湯の温度を確かめたりする人もいるそうです。
慣れてくると「大丈夫だろう」「適温だろう」と思いがちなのが怖いところです。
ですが、手を入れないでどうやって入浴させていたのでしょうか?
どうやって入浴させていたのか?
報道によりますと、89歳の女性は「意志の疎通が難しかった」とのことです。
おそらく、女性を入浴させるときは、上の写真のような「ストレッチャー」のようなベッドに横たわり、自動で浴槽に入れることができる設備を使っていたと思われます。
この場合、介護者は自分で意識的に手を湯の中に入れて温度を確かめなければ、ロボットのようなストレッチャーがお湯船の中に老人を入れてくれます。
おそらく女性はしゃべることもままならなかったのでしょう。熱いとも言えず、熱湯の中に入っていたことになります。
女性がストレッチャーごと湯船から上がったときは、身体が真っ赤だったに違いありません。
介護入浴中のやけどは過去にも同様な事が
実は、入浴介護での全身やけどは、今回が初めてではありません。
大阪の障害者支援センターでも入浴中に重度のやけど
2024年2月、大阪の障害者支援センター「ともしび園」でも、30代男性が入浴の支援を受けているときに、重度のやけどを負った事案があります。
この男性も、ストレッチャー式の機械で入浴しており、入浴後に男性の全身が真っ赤になっていたことから、園が119番通報しました。
男性は首から下の全身やけどで、病院に集中治療室で治療を受けたそうです。現在の状態は不明です。
このときも、職員は温度を測っておらず、マニュアルの設定よりも湯の温度が高温だった可能性があるということです。
この男性も意志の疎通が難しく、入浴している時も「熱い」などと自分の意志を伝えることができませんでした。
札幌の介護施設でもやけどで入居者死亡
同じく2024年に、札幌の特養でも同様の「入浴介助中のやけど」事案がありました。同じく、職員がお湯の温度管理を怠り、40℃後半以上の熱湯に88歳の女性を入浴させました。
入居者の女性はやけどをしてから5日後に死亡したということです。
高齢者の皮膚は薄いため、健康な大人と比べてやけどしやすい状態です。
なお、この事件をおこしてしまった40代の男性職員は業務上過失致死の疑いで書類送検されています。
少しの気の緩みが「犯罪」につながる恐ろしさ
高齢者にとって、たとえ意志が伝えられなくても、身体が思うように動かなくても、「お風呂に入る」ことは最大の喜びです。毎回楽しみにしている人も多いでしょう。
そんな幸せなはずの入浴中に全身やけどを負い、最悪の場合死に至るとは、本人も家族も想像すらしていないことです。
介護者も、ほんのちょっとした「慣れ」や「気の緩み」が大失態につながり、ひいては自分が「犯罪者」になってしまうことなど、考えもつかないでしょう。
お互いの悲劇を避けるためにも、「凡事徹底」を心がけて、二度とこのような悲劇が起こらないようにしてほしいものです。