青木崇高は自身でこう述べている。「ボクのドラマは、半分くらいNHKで占められています」と。
NHKは演技派の俳優しか選ばない。NHKのドラマは他局と比べて一歩も二歩も秀でているが、脚本や原作もさることながら、出演する俳優の演技力によるところが大きい。
NHKのドラマに青木崇高が出演することが多いのは、そんな理由からである。
この記事では、私がこれまで見たドラマの中から、青木崇高出演のおススメのドラマと映画を紹介する。あえてランキングはつけない。つけようと思ってもつけられなかった。どれも同率一位である。
皆さんに、すべてのドラマ・映画を見てほしいと思う。
ドラマ「はつ恋」
NHK 2012年8月18日から9月29まで 全8回
初恋の相手の裏切りで、絶望のふちをさまよった村上緑(木村佳乃)は、年下の潤(青木崇高)と出会い、言葉が人に与える影響の強さを痛感し言語聴覚士となった。緑を心から愛する潤と幼い息子に囲まれて幸せだった。そんな時、緑は肝臓がんと診断される。手術を成功させられるのは唯一、パリで活躍する日本人医師だけだった。潤の奔走の末、その医師との面会がかなうが、目の前に現れたのは、初恋の人、三島(伊原剛志)だった…。
私は特にラブストーリーが好きなタイプではないが、このドラマだけは、ラブストーリーが苦手な人にも見てほしい。単なるラブストーリーではなく、家族、人生、生きるということ、すべてが詰まっている濃厚な「人生のドラマ」だ。
主人公・村上緑(木村佳乃)の夫・潤を演じるのが青木崇高である。緑より年下の潤は、緑を愛し、小学校にあがろうとする息子との3人家族。平凡ではあるが、平凡な毎日にこそ幸せが詰まっていると気づかされる、そんな温かい家族だ。
だが、緑の病気の発覚により、家族の平和が突如として崩れ始める。病気の発覚と共に現れる、緑の初恋の相手。潤はうろたえ、悲しみ、怒り、嘆く。保険会社の支店長として働く潤。保険会社の外交はすべて女性である。会社と家庭の両立は、何も女性だけの問題ではない。男性も苦しんでいるのだ。そんな事実に視聴者は今更ながら気づかされる。
潤の苦しみがこちらに伝わってくる。こちらの胸も痛くなる。出会い、別れ、再会。私たちの人生におけるすべてが、このドラマに詰まっている。
木村佳乃、伊原剛志の演技も胸を打たれるが、なんといっても青木崇高のひとつひとつのセリフと仕草がグッとくる。このドラマを見ると、誰でも青木崇高のファンになるだろう。
SNSでも、「はつ恋」を見るためにNHKオンデマンドに入会したという声を多く見かけた。
ドラマ「サギデカ」
NHK 2019年8月31日から9月28日まで 全5回
振り込め詐欺を題材に、捉えどころのない詐欺グループの実体に迫り何としても摘発しようと死力を尽くす警視庁の女性刑事の姿を描いた社会派ヒューマンドラマ。
宮(木村文乃)は、がむしゃらかつ綿密な捜査を重ね、バイクを駆って犯人をどこまでも追い詰めていくような女性刑事。その内偵が功を奏し捜査二課は手塚(遠藤憲一)の指揮のもと、振り込め詐欺のアジトに突入。“かけ子”たちの逮捕に成功する。しかし彼らは犯罪組織の末端に過ぎず大金を手にする上層部の事を何も知らない。そのうちのひとりの青年(高杉真宙)に至っては、彼自身どこの誰なのか、全く手がかりがつかめない…。
青木崇高が演じるのは、廻谷(めぐりや)誠という若手ベンチャー企業の社長。テレビにも出演し、ベンチャー企業・オンザホライズンの代表を務めている。癌の治療薬開発に取り組んでいる。バイクの一人ツーリングが趣味で、海辺の町で偶然、夏蓮と出会う。
二人は意気投合し、少しずつ互いの距離も縮まっていくのだが…
ある時はさわやか、ある時は聡明、そしてある時は得体のしれない不気味さを漂わせるのが青木崇高の真骨頂。このドラマでは、最後まで彼がどういう人物なのか読めない。
果たして彼は、宮(木村文乃)の味方なのか敵なのか。青木の表情をじっと見ていてもさっぱり読めないので、最後まで楽しんで見てほしいと思う。
映画「ミッシング」
劇場公開日:2024年5月17日
幼女失踪事件がテーマ。主演:石原さとみ。石原の夫役を演じるのが青木崇高。
沙織里(石原さとみ)と夫・豊(青木崇高)の6歳の娘・美羽が突然失踪した。ドラマは失踪の3か月後から始まる。とある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからない。少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、 夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。
唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田も、局上層部の意向で視聴率獲得の為に、 沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下り、思い悩む。
そんな中、娘の失踪時、沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、 SNSで「育児放棄」と誹謗中傷の標的となってしまう。
世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、 いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。
父親役の青木崇高、失踪事件を描いたドラマ「ミッシング」での演技について語る
青木崇高は、ドラマ「ミッシング」で、少女失踪事件に直面する父親・豊を演じた。その中で、彼は現場での感情の優先を重視し、共演者である石原さとみ演じる沙織里との関係性を軸に、役作りを行ったと語る。青木は「石原さん自身も作品に向き合うのが非常に大変だったと思う。その大変さを共有することが、豊が沙織里を支える感覚と通じるものがあった」と述べている。
青木は、家族のバランスや家庭内でのポジションがそれぞれ異なると考え、豊がいなかったら家族がどうなっていたかという点にも着目している。娘の失踪によって家庭のバランスが崩れる中で、吉田監督がその崩壊を表現する巧みさにも感心していた。第三者から見ても痛みが伝わる表現が、この作品の特徴であり、観る人々の感情に深く訴えかけると評価している。
物語の中盤、豊が涙を流すシーンについて、青木は「豊は常に冷静さを保とうとしているが、彼も深く傷ついている」と語る。豊は自らの感情を抑え、家族を支える立場にあるが、それでも時折見せる感情の揺らぎが、観客に共感を呼ぶ。
また、青木は豊と沙織里の対比について、豊の無言の中にある有弁さが、石原の演じる感情の爆発に対するリアクションとして表現されていると話す。夫婦間の関係や人間の複雑な感情について深く考えさせられる場面が多く、青木自身も演じる中で人間関係の在り方について多くを学んだという。
青木は、SNSが引き起こすトラブルについても触れ、「家族の価値観を受け入れることの難しさ」を強調している。沙織里がSNSに翻弄される中で、豊は彼女を守ろうと立ち向かうが、それは単に「やめればいい」では済まない、家族としての関係の複雑さを描いたものだ。彼はこの経験を通じて、夫婦や家族というものの難しさについて深く考えたと述べている。
ドラマ「ミッシング」を通して、青木崇高は人間関係や夫婦間の葛藤、そして家族の在り方に対する理解を深め、観客にも強く響く演技を見せた。
ドラマ「3000万」
2024年10月スタート。全8回。NHK土曜ドラマ「3000万」が面白すぎる。こんなにも土曜日が待ち遠しく思えるのは生まれて初めてだ。
ドラマを見た次の日、つまり日曜日は、家族であーだのこーだのと考察大会が始まる。それがまた楽しい。安達祐実と青木崇高が「普通の夫婦」を演じているのだが、この夫婦、どこにでもいるような「平凡だけど、どこかずっこけている」夫婦だ。
コールセンターの派遣社員として働く佐々木祐子(安達祐実)は、家のローンやピアノの才能あふれる息子の教育費に悩んでいる。倹約を心がけるが、元ミュージシャンの夫・義光(青木崇高)は、大した稼ぎもないのに「なんとかなる」と楽観的。そんな一家が事故に出食わし、3000万円という大金を手にする。警察に返しそこねた家族は、大きな渦に巻き込まれていく。平凡な家族の日々が怒涛の展開で非日常へ。5分先も読めない!スリリングな物語が幕を開ける。
青木崇高は、こういう「悪いやつではないけど、ちょっとクズ男」をやらせたらピカ一である。憎めないやつだが、こんな男が自分の夫だったら経済的にかなりまずいのでは?と思わせる。
以下は、青木崇高の「3000万」出演に当たってのインタビューである。
青木は、「NHKはCMを挟まないので、とにかく没頭して見ることができます。ドラマの作り方も挑戦的です。撮影前の顔合わせの時に、“このドラマは伝説のドラマになる”と宣言したんですけど(笑)、本当にそれくらい面白いです」と意気込む。
夫婦役を演じた感想について、青木は「夫婦ならではの絶妙なやり取りに共感できて、楽しく演じられました。アジアやヨーロッパなど、世界の国の人たちにとっても、夫婦げんかや家庭内のいざこざは共通することですよね。そういう意味で、グローバルに展開できるドラマなのかなと思います」と明かした。