映画『地面師たち』で竹下役を演じた北村一輝の演技は、多くの観客に強烈な印象を与えました。特に話題となったのが、彼が突然「ルイ・ヴィトン!」と叫ぶシーン。このセリフ、実は台本にはなく、北村一輝のアドリブだったということが後から明らかになりました。これを聞いて驚いた人も多いのではないでしょうか。
アドリブ「ルイ・ヴィトン!」が生まれた背景
劇中、竹下が自分の持っているバッグを指して「ルイ・ヴィトン!」と叫ぶシーンは、予想外でありながらも絶妙なタイミングで繰り出されました。この突拍子もない発言に対面していた共演者たちも、内心では笑いをこらえるのに必死だったそうです。しかし、そのシーンは物語の緊張感が高まる場面でもあり、彼らは笑顔を抑え、真剣な表情を保たなければなりませんでした。北村のユーモアと真剣さが交錯する名演技が光る瞬間でした。
恐怖と狂気を表現する「ルイ・ヴィトン!」
北村一輝が「ルイ・ヴィトン!」と叫んだシーンは、東宝スタジオのセットである「ハリソンルーム」で撮影されました。これは、物語のクライマックスともいえる場面で、精神的に追い詰められた竹下が、相手に詰め寄るシーンでした。突然の「ルイ・ヴィトン!」という叫びは、一見脈絡がないように見えますが、その狂気じみた叫びは、彼の精神状態を見事に表現しています。この瞬間、視聴者に強烈な恐怖感を与えました。
アドリブに見る北村一輝の演技力
このアドリブが生まれた背景には、北村一輝の演技に対する深い理解と、その場の空気を掴む天性の感覚がありました。突拍子もないセリフではありますが、決して笑いを狙ったわけではなく、役としての「人間」を見事に表現しています。台本にないこのセリフは、その場で感じた「人間らしさ」を具現化したものであり、役者としての技術の高さを感じさせます。
ちなみに北村一輝さんは、自身でもルイヴィトンの大ファンだそうです。ドラマの中でいつも大事そうにルイヴィトンのバッグを抱えている竹下と北村さんが重なってみえる瞬間でした。
石野卓球が一番好きなセリフ
「地面師たち」の音楽を担当した石野卓球に、ピエール瀧が「地面師たちの中で一番好きなセリフは何?」と聞いたら「ルイヴィトン」と答えたそうです。
数々の名セリフを残した「地面師たち」ですが、その中でも「ルイヴィトン」は妙に忘れられない名シーンとして視聴者の心にグサっと突き刺さりました。
北村によると、「自分はいつもピチピチのジャージの上下セットで、ハリソンのような高級スーツに身をまとったりはしない。オレだって、ひとつぐらいはいい物持ってるってことを言っておかないとな、と思ってとっさに出たアドリブです。あの時は狂気の世界でしたね。」とのことです。
あの場面は、竹下が壊れ始めた瞬間でした。竹下というよりも全体にひとつ割れ目が入ってしまった瞬間とも言えましょう。面白いシーンですが、恐ろしいシーンです。これからどうなってしまうのか、少なくともハッピーとは180度真逆の世界へ突き進むことは目に見えていました。
謎に包まれた「竹下」というキャラクター
竹下は不思議なキャラクターで、謎が多いですね。あんなに薬をやってヘラヘラしながらも、あれだけの物件情報を集め、一流の「地上げ屋」として活躍しています。竹下のキャラクターはもっと掘り下げて知りたいと思う人が多かったでしょう。私もその一人です。
「地面師たち」の中で、一番古いタイプの「地上げ屋」です。自分では詐欺まがいのことはせず、あくまでも物件情報を地面師側に提供する。地主になりすます方法は、地面師側にまかせる。地面師の仕事は、竹下の地上げ情報がなければ成り立たないわけです。
だが、竹下は薬に手を染めてしまった。自分がどんどん壊れていくのが自分でも分かっている竹下。破滅の道に進むのを自覚しながら、分け前を独り占めし、表向きは何もしないハリソンに不満を抱いているのです。その不満が、ブーメランのように自分に飛んでくることになります。
「ルイヴィトン!」のセリフは、竹下という人間の奥深さを描く強烈なシーンでした。台本には書きにくいこのセリフを、北村一輝はアドリブで演出し、大成功を収めました。やはり、ただならぬ俳優です。
まとめ
『地面師たち』での北村一輝の演技は、ユーモアと狂気を絶妙に交えたものとなっています。彼のアドリブ「ルイ・ヴィトン!」は、その象徴的なシーンであり、視聴者に強い印象を残しました。俳優としての北村一輝の実力が光るこのシーンは、彼の名演技として語り継がれていくでしょう。