ドラマ「地面師たち」は、ものの見事に地面師が石洋ハウスから大規模不動産詐欺で55億という大金をせしめることに成功した。(見事と言ってよいかどうかは悩むところだ)
地面師たちと石洋ハウスが直接つながったわけでない。間に2つの「仲介業者」が入っている。そのひとつが「林(マキタスポーツ」だ。
林はつまるところハリソンに葬られたわけだが、その理由と、林の役割について解説していきたい。
林に会いに行った青柳
なぜ林(マキタスポーツ)が殺されたのかを知るためには、そもそも林がどういう役割だったのかを理解しておく必要がある。
まず、石洋ハウスの青柳が林に会いに行ったところから、林の運命が崩れ始めた。林の事務所は古びた雑居ビルの一室にある。「不動産案内所 林産業」というのは建前で、実際は一匹狼の地上げ屋である。
何かすぐに手掛けることのできる物件はないかと尋ねる青柳。実は、青柳と林は以前から面識があり、因縁の仲でもある。
林は足の水虫の治療をしながら青柳と話す。(なんと汚い)
林は、青柳が抱えていた大井町の案件がボツになった話も伝え聞いていた。
さんざん、人に汚れ仕事を押し付けて、自分たちだけいい思いをして、都合が悪くなったらトカゲのしっぽを切るようなことをした青柳のことを、林は許してはいなかった。
実は林は、前にある物件で青柳と組んだ事件で3年の懲役をくらって出所したのだった。「お引き取りください」と、林は早々に青柳を突っぱねた。
後藤(ピエール瀧)から物件を持ち掛けられる林
ハリソン山中を中心とする地面師たちは、次の物件を「高輪の一等地にある寺に隣接する広大な駐車場」と決めていた。だが、買い手がそうすぐに決まるわけではない。
そんな時、後藤(ピエール瀧)が面白い情報を持ってきた。以前から知っていた地上げ屋の林が、石洋ハウスが大井町の代替え物件を探していると伝えてきた。ハリソンは、次のターゲットを「石洋ハウス」に決めた。
後藤は林に会いに行く。「こっちも面白い物件があるんだ」と、高輪の土地の話を持ち出した。
林はすでにその土地については詳しく知っていた。他の業者も目を付けているが、地主が売りたがらないということも知っている。
後藤は「最近地主が心変わりしたというか、交渉の余地があるというか」と、話を続けた。
林は呑み込みが早かった。「で、石洋にその話を持ち掛けたいと」
後藤は林に聞いた。「あんたはどない思う?」
この業界には古い林は話し出した。
「どこのデベロッパーも飛びつく案件だが、土地が広すぎて価格も高い。決済が下りるまで、普通なら1年はかかるだろう。だが、石洋は会長派と社長派が対立している。社長案件に持ち込めば、意外と早く決済が下りるかもしれない」
林は地上げのみならず、大手不動産企業の事情にも通じている。後藤は林の足元にも及ばない。
詐欺案件であることを見抜いていた林
さらに林は続けた。
「でも、石洋は再大手だからね。3か月前の、恵比寿の案件。あんな、マイクホームズみたいなポッと出の会社みたいにはうまくいかないってことだよ」
林は後藤の持ってきた物件が「地面師」案件であることをとっくに見抜いていたのだ。
だが、林は石洋と後藤たちの間に、ひとつ中堅の不動産企業をかませれば怪しまれないだろうと進言した。その不動産会社は「アビルホールディングス」。林は紹介手数料だけもらえばいいと、後藤に言った。
あくまでもシラを切りとおす後藤が「ひとまず持ち帰る」と席を立ったとき、林は「ハリソンによろしくお伝えください」と声をかけた。
林は、後藤の裏にハリソンがいることすら、見抜いていたのだ。林は「不動産業界の裏の裏まで知り尽くすプロ」である。
以前石洋の青柳と組んで痛い目に合っていた林は、今回の高輪案件で、青柳に一杯くわせようとたくらんだに違いない。
知りすぎていた林
林はあまりにも地面師側のやり口を人を知りすぎていた。
ハリソンは、仲間が裏切った場合は処罰するが、仲間でなくとも、その人間が事情を知りすぎている場合も処罰する。
高輪の不動産取引が詐欺案件だと知れたときに、林が事情聴取され、ハリソン山中に行きつくのは目に見えている。ハリソンは逮捕を何よりも恐れている。
林を葬り去るのは、ハリソンにとって「いつものやり方」なのだ。
林も、知らないふりをして、淡々と仲介料だけもらっておけばよかったのかもしれない。「だまされたフリをする」ことは、案外難しいことなのかもしれないと思った。
思えば、私たちの日常でも、「知っていても知らないフリ」をしたほうが良い状況ってのは、けっこうあるものだ。面倒なことに巻き込まれたくないならば、事の大小に関係なく、関わらないでそっと立ち去って無事に生き延びましょう。