子育てと会社の両立、そして経済的な問題。毎日の生活がいっぱいいっぱいだった葵は、突然呼吸が苦しくなる症状を訴えるようになった。
そして、行きついたのが弱井の診療所だった。
「パニック症」と診断される
弱井は、葵の話をいろいろ聞きながら、「それは大変でしたね。お話を伺うところ、パニック症だと思われます」と伝えた。
葵「でも私、メンタルは強いほうだと思ってたんですけど」
弱井「この病気は、メンタルが弱いからかからないわけではありません。脳の誤作動なんです。まあ、少し休みましょうと体が教えてくれてるんですね」
「表を作るといいですよ。10段階にして、電車に乗るのは10点とか、エレベーターに乗るのは6点とか、不安の点数を書くんです。呼吸が苦しくなりそうだったら、ゆっくり数を数えて呼吸するといいですよ。吸うよりも、吐くほうが大事です」
「薬を出しておきましょうか」と弱井が言うと、葵がお薬手帳を取り出して弱井に見せた。
「診療内科で出してもらったんですけど、めまいがひどくて仕事にならなくて」
弱井「確かに、このお薬を毎日飲むのは強すぎるかもしれませんね。うちで出す薬は頓服薬(とんぷくやく)と言って、症状が出たときにだけ飲む薬です。副作用もないので、安心してください」
葵はホッとしていた。精神科とは、もっと特別な場所のような気がしていた。自分に何が起きていたのか不安だったが、この症状に名前がついて、気持ちが楽になったようだった。
「不安階層表」を作る葵
葵は、家に帰ってさっそく弱井に言われた表づくりをしていた。なぜか、気持ちが落ち着いてくるのを感じていた。
弱井と雨宮は、葵と3人で外に出ていた。葵が作った「不安階層表」を見ながら、「現場検証」のようなことを行っていた。
弱井は、「表に書いてある、点数の低いものから順番に、明日から一人で試してみてください」と葵に提案した。
不安から遠ざかっていると、どんどん行動範囲が狭くなってしまい、ますます症状が重くなっていく。不安をひとつずつ解消していき、ちゃんとできたことを脳に実感させることが大事なのだ。
「電車に乗るのが不安なら、最初は見るだけでいいんです。できたら、自分をほめてあげましょう」
「ご褒美を励みにするのもいいですよね」
葵、さっそく自分にご褒美をあげています。いい感じですね!
「ベイビーステップ。できることから。」
ベイビーステップって、赤ちゃんが、少しずつできるようになっていくことなんですね。いい言葉!
「映画に行きたい」という翔
そんなある晩のこと。翔が「映画に行きたい」と言い出す。友達が行ったので、自分も行きたくなったのだ。
連れてってやりたいが、大きなホールなどは息が苦しくなりそうで怖い。「不安階層表」では「9」だ。
「今は忙しいから、ちょっと無理かな」と葵は言うが、いつか連れていってあげたいと心から思うのだった。
何か深い理由を持つ弱井
ある日、突然男が診療所に入ってきた。男は「早く戻ってこい。みんなお前の帰りを待ってるんだぞ。こんなちっぽけなクリニックなんて開いて、何がしたいんだ」と怒っているようだ。
「世界中の医者とおんなじだよ。患者を一人も死なせたくないだけなんだ」
男は納得いかないようで、クリニックを出た。男の名前は松野(三浦貴大)。以前、一緒に「帝應大学」で弱井と働いていた仲間だ。
葵は、クリニックを出た松野に声をかけ、事情を聞いた。
「あいつ、すごい優秀なやつで、ハーバードにも留学したんだよ。」
「なんでそんな優秀な方が?」
「すべて変わってしまったんだよ、あの時から」
父親と翔の面会日
今日は、翔が父と会う日だ。翔はさっそくおもちゃを買ってもらい、大喜びだ。車に乗って出かける二人を見送る葵。
一人になった葵は、今日はやりたいことがあった。電車に乗ることだ。
駅に向かい、改札を通り、ホームに立つ。息苦しくなってきたが、弱井に言われたとおり、ゆっくり深呼吸をする。
電車が来た。足がなかなか前に進まなかったが、思い切って飛び乗った。そして、目的の駅で降りた。それだけで、葵にとっては大きな進歩だった。
自然に、笑みがこぼれていた。できることを、少しずつ。これから会社の最寄りの駅まで行きたいところだが、今日はここまで。ベイビーステップ。今日できたことを、褒めてあげよう。
ゴンドラに乗ったけど
翔が帰ってきた。遊園地に行ったが、ゴンドラに乗れなかったとがっかりしている。
「じゃあ、今からママとゴンドラ乗る?」葵は思い切って言ってみた。もちろん翔は大喜び。
だが、いざゴンドラに乗ろうとすると、突然息苦しくなってきた。高い場所で、しかも閉所である。閉じられた空間。葵は、弱井からもらった薬を飲もうとするが、床に落としてしまう。
葵の様子がおかしいことを知り、翔もパニックになる。ようやっとの思いでゴンドラから降りる葵。
葵は救急車で運ばれることとなった。
弱井の診察を受ける葵
葵はひだまりクリニックにいた。
「なぜ、観覧車に乗ろうと思ったんですか?」
「私、この頃どこにも翔を連れてってあげてなかったなって。私、翔の喜ぶ顔が見たかったんです」
「お母さんにとって一番のご褒美は、翔君の笑顔なんですね」
弱井の言葉を聞いて、葵は泣き出した。
葵は弱井に打ち明けた。「翔の保育園の、おゆうぎ会に行きたいんです。でも、ホールが怖くて。」
「雪村さん、少しだけまわりの人に甘えてみませんか?翔君のために」
おゆうぎ会の予行練習
葵は、弱井たちのサポートを受けて、保育園にやってきた。
おゆうぎ会をやるホールに入ってみる。ドキドキするが、深呼吸、深呼吸。隣には弱井も座っている。次第に、気持ちが静かになってきた。
おゆうぎ会当日
そして、いよいよおゆうぎ会当日がやってきた。
大勢の人。前のほうの席には苦手な姑も座っている。カーテンが閉められ、部屋が暗くなった。葵の呼吸は荒くなる。深呼吸、深呼吸。
翔が踊っている!楽しそうに、家で練習していたのはこれだったんだ。親も一緒に踊り始めた。
踊り終わったとき、葵はすっかり笑顔になっていた。もちろん、呼吸も正常だ。
姑の文世が言ってくれた。「私も、若いころ精神科に通いたいと思ったことがあったけど、通えなかったの。だからね、あなたには私を頼ってほしい。何かあったら、いつでも言ってね」
葵は、人に頼ってもいいんだといことを学んだ。もう大丈夫。できることをひとつずつ。葵には、翔も、姑の文世もついている。会社には同僚もいる。そして、弱井もいてくれる。
第1話の感想
私は精神科に通ったことはないが、知り合いや親せきで、「うつ」の人は何人かいる。
精神科と心療内科の違いって、そもそも何だろう?精神に関する病気は、なんとなく触れてはならないことのように感じる。
当人に「なぜうつ病になったの?」とは、とても聞けない。嫌なことを思い出させて、病気を悪化させては大変だという想いが強い。
だからと言って、大丈夫だよとも言えないし、がんばってとも言えない。この「声かけ」の部分は普通の病気と同じだが、病気の場合、治ったか治ってないかが分かりやすい。
だが、精神の病気は、どうなのだろう。葵のように、「もう大丈夫」と自覚するまでどれくらいかかるのだろうか。
まだまだ、精神の病のことは分からないことが多い。アメリカでは、すぐにカウンセラーのところに行くようだが、日本はなかなかそのような機会がない。
もっと気軽にメンタルのことで相談できる、信頼できる先生がいればいいのにと思う。そう、弱井先生のように。