2024年7月、Netflixで配信スタートと共に、日本のみならず世界中の話題をかっさらったドラマ「地面師たち」。
ドラマ冒頭から見事に地面師にしてやられるマイクホームズの社長・真木悠輔(駿河太郎)は鶴瓶の息子さんです。そんなマイクホームズとの取引で、地面師側が「解体費用はこちらが持ちますので」とは、どんな意味でしょうか。
この記事では「解体費用」について解説します。今後、あなたの不動産取引でも絶対に役に立つので、ぜひお読みください。
マイクホームズが騙された件
新進の中小不動産企業「マイクホームズ」の社長、真木(駿河太郎)は、どうしても大きな金額の土地を一発当てて、なんとかして大手デベロッパーにのし上がりたいという気持ちでいっぱいの若手社長です。
現在は、投資用ワンルームマンションの開発・販売を手掛けています。真木としては、良い物件を探し求めてブローカーとも接触しています。
今回、恵比寿に9億という物件を紹介され、待ってましたとばかりに飛びついたのが運の尽き。見事、地面師にしてやられたというわけです。
今回取引対象となっているのは、恵比寿駅から徒歩5分の場所にある、築25年の一軒家。所有者の島崎は、長年この家で一人暮らしをしていましたが、病気で入退院を繰り返したのち、昨年熱海のホスピスに入居しています。家族も無し、奥さんはすでに亡くなっています。抵当権もついていないので、かなりの優良物件です。
面積は478平米、坪単価は980万。第二種住居地。マンションでも建てればあっという間に満室になるだろうという物件です。
約144坪で、坪単価980万とすると、約14億。それを9億で売るということですから、相手はすぐ飛びつくでしょうね。(もっとも詐欺ですが)
マイクホームズは中小不動産と言えども、投資用マンションの開発と建設を専門としているだけあって、ある程度の規模の企業と見て間違いないでしょう。
敏腕の司法書士という設定で現れるピエール瀧が、最初は9億という価格で持ちかけますが、他社からの問い合わせが多く、売り主も早く売りたがっていると真木に言います。
どうしてもこの物件を手に入れたい真木は、部下が静止するのも構わず「10億で買います」と即決します。
次の週に正式な売買契約を結ぶ運びになり、真木は手付として1億用意する、その代わりに売り主に会わせてもらう、そのように双方の条件が折り合いました。
いよいよ正式な売買契約へ
佐々木さん(キャスティングされた偽物の売り主)は、「島崎さん」という人物になりすまします。この佐々木さん、これまで多数の映画やドラマに脇役として出演している名優の、五頭(ごづ)さんです。
偽造書類がそろった段階で、売買契約の運びとなり、前金の一億が振り込まれます。
この日は最終決裁。なりすましの地主もようやく登場します。この取引では、残金9億の支払いと、所有権の移転が同時に行われる大事な局面。本人確認も行われます。
なんとか本人確認もギリギリ成功し、無事に取引成立と相成りました。逆を言えば、マイクホームズが詐欺にあったということになります。
なぜ解体費用を地面師側が持つと言いだしたのか
実は、この正式な売買契約の前に、現地で物件の下見をピエール瀧とマイクホームズ側が行っています。
現地には、古い家屋が残っています。マイクホームズの社長・真木が「家屋の中を見せてほしい」とピエール瀧に言いますが、ピエールは「中は古いしだいぶ散らかっているので、島崎さんが見せたがらない」と返します。
それに対して真木は「ですが、解体業者にもある程度内容を伝えなければいけないので」と言うと、ピエール瀧は「そのことなんですけどな、解体業者と取り壊しの費用、こっちで持たせてもらいたいんですわ」と返事をします。
ピエール瀧は、「市場価格よりもだいぶ安く売った分、解体費用を仲介業者としての取り分に乗せるということを相手に悟らせる」ことを匂わせ、真木を納得させます。
マイクホームズに解体させてはならない理由とは
実際の不動産売買では、解体費用をどちらが持つかは議題に乗りますが、今回は「詐欺」なので、通常の不動産売買の話は置いておきます。
地面師側のピエール瀧が「解体費用をこちらで持つ」と言った理由は、この場合ふたつあります。
どうしてもマイクホームズに内見させたくない
今回、真木は「家屋の中を見させてもらいたい」とピエールに言います。この頼みはもっともな頼みです。通常の不動産売買でも、たとえ飼い主が現存している古屋を壊すと分かっていても、家の中を見ることはよくあります。これを内見(ないけん)と言います。
ピエールは、どうしても内見は避けたかったんですよね。もちろん、自分も中がどうなっているか分かりませんし、もしかしたら地主の写真が飾ってあるかもしれません。何が出てくるか分からないのです。リスクのあることはどうしても避けたい。
また、時間がかかるようですと、近隣の人が気付くこともあるでしょう。誰もいないはずの家に、怪しい人物が出入りしていると分かれば、警察に通報することも考えられます。そうしたことは、絶対に避けなければなりません。
つまり、真木が内見することはどうしても避けたかったのです。ですから、「解体はこっちでするから、内見は必要ないですよ」とピエールが真木を説得したのです。
マイクホームズに解体をさせたくなかった
今回、地面師側が仕掛けているのは、ただの「詐欺」です。つまり、土地は相変わらず地主の物ですし、最終的に残金を支払った時点で、すぐさま地面師はとんずらします。
そうとは知らない、残金を払い終わったマイクホームズは、所有権が自分たちの物になったと当然思いますよね。
もしも、マイクホームズが現場の建築物の解体を行うとしたら、残金を支払って所有権が移転した直後から解体に取り掛かるための準備を行います。一日も早く工事に取り掛かりたいからです。
その場合、測量士が入ったり、解体業者が下見に来るわけですが、かなり大がかりなので、地主や近隣の住民が気付くリスクが高いでしょう。つまり、詐欺案件であることがすぐにバレるわけです。
しかし、地面師側が解体を行う場合、マイクホームズは解体が完全に終了するのをただ待つだけになります。その違いは非情に大きい。
いつかはバレるのですが、少しでも高飛びする時間を地面師たちは稼ぐ必要があるわけです。
遅かれ早かれ、法務局から所有権移転を却下する通知が届くので、そこで詐欺だと分かるのですが、後の祭りです。
つまり、地面師詐欺の場合、解体費用を地面師側が持つ意味は、相手に解体させるとまずいから、という一点になります。
詐欺ですので、解体費用も何もあったものではありません。地面師側は、実際に解体費用など一円も払わないのですから、損するわけがありません。
このような理由で、解体費用をピエール瀧が持つことになりました。
以上のような説明でお分かりになりましたでしょうか。
なお、繰り返しになりますが、実際の不動産売買で、古屋が残っていたり、樹木がある場合は、解体費用をどちらが持つかは取引の材料になります。
地面師のいつものやり口が「解体はこっちで持つ」
ドラマで、真木が解体業者のことを口にしたとたん、ピエールは「あ、そうそう、解体業者の事なんだけど」と、思い出したような言い方をしますが、本当に演技がうまいと思った瞬間でした。
その理由も、「市場価格より安く売ったんで、こっちはあまり儲けがないんだよね。だから、解体費用をこっちが持って、その分売買手数料に上乗せさせてもらうわ、大目に見てや」と含ませるピエールの表情が、本当の地面師に見えてしまって仕方がありませんでした。
この名刺、ピエール瀧が用意した名刺ですが、「レイズエージェント不動産 リテール営業部 部長」の肩書がありますね。リテールとは「小売り」のことですが、つまりは島崎さんの土地の売買における仲介業者の位置づけでしょう。」
結局、ピエール瀧の会社は売買手数料で儲けているわけですから、そのあたりの事情は真木も重々承知で、見事にだまされたというわけです。
こう書きながらも、名刺一枚でも本物に見えるほど手が込んでいるので、このドラマの緻密さに驚いている次第です。
私が実際に不動産売買で「解体費用」が絡んだ案件を記事にしています。ぜひお読みください。こっちのほうがあなたの役に立つ情報です。