祖父の家に呼ばれた理由が、跡取りを四兄弟の中から選ぶためではないかと察した隼は、内心心穏やかではなかった。
東京に戻った隼
隼が担任をしているクラスの子がけがをしたという連絡を受けた隼だったが、学校に着いた時には、同僚の先生が搬送し、病院まで付き添ってくれたのだった。
感謝する隼に先生は「今ごろ弟さんたち、寂しがってるんじゃない?」
隼:いや、それが結構向こうの家になじんじゃって。
先生:じゃあ、先生は今日こっちでゆっくりできるんじゃない?
隼:いや、心配なのですぐに戻らないと。
おやつ
そのころ弟たちは、おやつをいただいていた。
「食べていい?いっただきまーす。超うまい!」湊の明るさに、叔母も笑顔だ。
尊:おやつもご飯も、おいしものばかりですね!
岳:隼兄さんにも、食べさせてやりたかった。
叔母:大丈夫よ、隼兄さんの分もあるから。
岳:かたじけない。
湊:飯はうまいし、外で遊ぶところはいっぱいあるし、最高だね、この家!
叔母:隼にいさんはいつも忙しいの?
そう聞かれて、弟たちは「担任を持ってからは特に。家事も、料理も、ほとんど隼にいさんがやってるから」と答えた。
叔父:やはり、仕事をしながら子育てをするのは大変だな。休日も身体を休めたり、自分の時間を過ごすこともできないだろう。
岳は叔父のその言葉を聞き、黙って下を向いてしまった。
岳の決断
部屋に帰ると、岳は湊と尊に話を聞いてくれと言った。
岳:隼兄さんは父さんや母さんが亡くなってから、自分の人生をオレたちに捧げている。
尊:まま、確かに、そうとも言えるね。
岳:尊にいさんも湊にいさんも、中学を卒業すれば、隼にいさんの手を煩わさせることも格段に減る。だが、オレは違う。
湊:何が違うんだよ?
岳:6歳のオレは、中学を卒業するまで、10年近くかかる。それまで隼兄さんは、今のような自由のない暮らしを続けなくてはならない。
尊:そんなことないよ。
湊:そうだよ、オレだってこれからもっともっとお手伝いできるようになるし。
尊:大丈夫だよ、岳は何も心配しないで。
家へ戻った隼
隼はいったん家へ戻り、湊が置き忘れていった着替えを袋に詰めた。振り返ると、誰もいないリビングが見えた。
いつもなら、ここに弟たちがいて、今日の夕飯ハンバーグがいいとか、みんなでゲームをしたり、自分の誕生日にはあの壁にハッピーバースデーの飾りつけをしてもらったり、そんな場面がよみがえってきた。
弟たちがいない家は、なんと寂しいものだろう。
隼は思いつめたように、ソファに座り込んだ。その時、窓をコンコンとたたく音がした。隣の咲さんだ。
「隼君が家に入っていくのが見えたから。今日スーパーで買いすぎちゃったから。ネギと、チョコ、よかったらオレンジもどう?」
隼は、学校で急用があったので帰ってきたこと、弟たちはまだ向こうなのでこれから戻ることを話した。
咲さんの言葉
隼:オレ、これまでずっと弟たちを守らなきゃって思ってた。叔父さんたちを、これまでずっと信用できなくて。でも、すごくいい人たちだった。不完全なオレより、弟たちは叔父さんのところで暮らすほうが幸せなのかもと思って。
咲:何言ってんのよ、そんなわけないでしょ。
隼:弟たちの幸せのためにって思ってたけど、本当は、オレが弟たちと離れたくなかったんじゃないかなって。
咲:そんなわけない!
隼:すみません…
咲は家に戻ってからも、隼の言葉がずっと引っかかっていた。虎次郎や子供たちも、咲の様子がおかしいと心配する。
再び、祖父の家
夜になり、隼が戻ってきた。
隼:みんな、ちょっと聞いてくれ。
弟たちは神妙な面持ちで隼の前に座った。
隼:お前たち、この家の子になってくれと言われたら、どうする?
湊:なんでそんなこと言うんだよ。オレたちのことが面倒くさくなったのか?邪魔になったか?
隼:違う、そうじゃない。
湊:じゃあ、なんでだよ?
岳:わかった、オレはこの家の子になる。
湊:なんで?なんで岳ちゃんそんなこと言うんだよ!
騒ぎを聞きつけて、叔父と叔母が入ってきた。
叔母:どうしたの、大きな声を出して。
湊:おばちゃん、隼が、オレたちのことをいらないって言うんだよ。
隼:いや、そうじゃなくて。
岳:いいんだ、兄さんたち。オレがこの家の子になれば。
叔父:隼、いったいどういうことなんだ。
隼:この家は、跡取りが必要だから、それでオレたちが呼ばれたって聞いて。
叔父:いったい誰がそんなこと言ったんだ。
隼:だって、今までずっと交流がなかったのに、そんな理由でもなければ、こうして呼ばれるなんて思わないじゃないですか。叔父さんたちは、弟たちを養子にしたいんじゃないですか?
湊:そうなのか、おじちゃん?
叔父:隼、お前は、弟たちがうちに取られてもいいのか?
隼:弟たちが幸せなら、オレは…
弟たちは全員黙りこくってしまった。そこへ、祖父がやってきた。
祖父:隼、来い。話がある。
そういって祖父は、隼を自分の部屋へ連れていった。