映画「先生の白い嘘」で、監督の舞台あいさつで期せずして有名になった「インティマシー・コーディネーター」という仕事。この仕事について深く掘り下げます。
「燕は戻ってこない」はインティマシー・コーディネーターと共に!
NHKのドラマ「燕は戻ってこない」は、女性の貧困、代理出産など、おそらく民放ではスポンサーの顔色をうかがって扱えないような、濃い内容に仕上がっています。
2024年7月25日Netflixで配信スタートの「地面師たち」にも濃厚な場面がいくつかありますが、そちらにも浅田智穂さんがインティマシー・コーディネーターとして入っています。
女性専用夜の「セラピスト」という仕事
このドラマの主人公「リキ(石橋静河)」は、貧困のために自分の子宮と卵子を売る(貸し出す)というビジネスに参加します。それが代理出産です。
ドラマの中で、リキはテル(同僚の女性・伊藤万理華)から女性専用の出張マッサージを知り、利用することに。そこで出会ったのがセラピストのダイキ(森崎ウィン)でした。
ここでいう「セラピスト」とは、一般的に想像されるセラピストとは違い、夜の世界のセラピストです。女性の話を聞いて、気持ちに寄り添って、マッサージします。いろいろなコースがあるようですが、最後の行為までは行いません。日本では違法になるからです。
ですが、ホテルの一室という閉じられた空間の中で、実際に何をしているかは誰にもわからないものです。リキは最後までの行為をダイキにお願いし、ダイキもその願いを受け入れます。
出演者も納得できる演技が、視聴者にも受け入れられる
そのようなシーンは一般的に、お茶の間で観ている側も恥ずかしく、「え?本当に?」などと思ったりするのですが、この場面にインティマシー・コーディネーターの浅田智穂さんが入ってくださいました。
それゆえでしょうか、きわどい場面でしたが、見ているほうは緩やかに自分もストーリーに入っていくことができました。おそらく、現場の俳優さん(石橋静河さん、森崎ウィンさん)やスタッフの皆さんが、十分話し合い、作品を理解し、納得した上で演技に臨んだ結果だと思われます。
このドラマにインティマシー・コーディネーターという素晴らしい職業が関与したことを、一視聴者として、さらに一人の女性として、とても嬉しく、誇らしく思います。
#燕は戻ってこない 第2話を通じ、インティマシー・コーディネーターのパイオニアである浅田智穂さんに出会えたことは、ほんとうに恵みでした。精神も肉体も、安全を守りながら作品を高めてゆけることは、みずからの仕事を、心の底から永く愛し続けるための御守りでもあるのだと、感じ続けていました。 https://t.co/Aq7fCdb7Mh
— 山戸結希 -news account- (@yamato_uk_ns) May 7, 2024
別の記事で、【燕は戻ってこない】セラピストのダイキ役森崎ウィンについて述べていますので、ぜひお読みください。
インティマシー・コーディネーターの重要性と日本における現状
インティマシー・コーディネーターとは
インティマシー・コーディネーター(Intimacy Coordinator)は、映画やドラマ、舞台などで性的なシーンや親密なシーンの撮影・演出において、俳優の心理的・身体的な安全を確保する専門職です。彼らはシーンのリハーサルから撮影当日まで、俳優と制作陣の間に立ち、シーンが円滑かつ安全に進行するよう調整を行います。
必要性の背景
性的なシーンや親密なシーンは、俳優にとって非常にデリケートなものであり、適切な配慮がなければ心理的なトラウマや身体的な不快感を引き起こす可能性があります。また、制作陣にとっても、俳優の権利や安全を確保しないと法的な問題に発展するリスクが存在します。こうしたリスクを未然に防ぎ、全員が安心して作品作りに集中できる環境を作るために、インティマシー・コーディネーターの存在は不可欠です。
日本における現状
日本では、インティマシー・コーディネーターという役職はまだ一般的ではなく、その必要性についての認識も十分に浸透していません。その結果、俳優たちはしばしば自らの判断でデリケートなシーンに対応しなければならず、心理的・身体的な負担が大きくなっています。
映画やドラマの現場では、性的なシーンや親密なシーンが不適切に演出されるケースも少なくありません。例えば、リハーサルなしに急に本番で過激なシーンを要求される、適切な説明や同意がないままシーンが進行する、といった事例が報告されています。こうした状況は、俳優の安全を脅かし、作品の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。
知り合いのかけだし女優さんから聞いた本当の事とは?
私は以前、女優志望の女性の友達がいました。女優志望と言っても、最初から希望する仕事を与えられるはずもありません。当然、下っ端の仕事、人の嫌がる仕事も回ってきます。
断る、断らないはその人の自由なんですが、彼女はがんばって仕事を受けていました。ベッドシーンや、恥ずかしいシーンも多いと言っていました。
撮影現場には男性しかいない時のほうが多く、大変恥ずかしかったそうです。仕事と割り切りつつも、割りきれないのが女性の気持ちです。
男性の視線にさらされながら、言われたとおりに演技をする苦痛は、今でも忘れられるものではないと言っていました。当時は、インティマシー・コーディネーターという職業すらなかったかもしれません。
そこに、一人でも女性の気持ちに寄り添ってあげる女性がいてくれたら、どんなに嬉しく、心強いものでしょう。今回は「先生の白い嘘」という映画により、図らずも認知度を上げたインティマシー・コーディネーターですが、これからは女性が大きな声で「インティマシー・コーディネーターを入れてください」と言えるような社会になってほしいと思います。
また、女優を守るためにも、マネージャーや事務所も同様に、声をあげて、大切な一人の女性を守ってあげ、応援してあげてほしいと切に願います。
インティマシー・コーディネーター「浅田智穂」さんのHPはこちら
海外の事情と日本の遅れ
海外、特にハリウッドでは、インティマシー・コーディネーターの導入が急速に進んでいます。#MeToo運動がきっかけとなり、俳優の権利や安全を確保する取り組みが強化され、その一環としてインティマシー・コーディネーターの必要性が認識されるようになりました。
ハリウッドでは、性的なシーンや親密なシーンが含まれる作品では、インティマシー・コーディネーターが常駐することが標準化されつつあります。彼らは、俳優と制作陣との間で事前に詳細な話し合いを行い、シーンの演出方法や俳優の同意を確認します。また、シーンのリハーサルを通じて、安全な動作やタッチの方法を指導し、撮影がスムーズに進むようサポートします。
日本と比較すると、海外の取り組みは非常に進んでおり、日本の現状は遅れをとっていると言わざるを得ません。これは、日本の映画・ドラマ業界が伝統的に俳優の自主性に依存してきた背景や、インティマシー・コーディネーターという役職自体の認知度が低いことが原因と考えられます。
インティマシー・コーディネーターの役割とメリット
インティマシー・コーディネーターの主な役割は以下の通りです:
- シーンの安全確認とリハーサル:性的なシーンや親密なシーンのリハーサルを行い、安全な動作やタッチの方法を指導します。これにより、俳優が安心して演技に集中できる環境を作ります。
- 俳優の同意確認:シーンの詳細について俳優と話し合い、全員の同意を得た上で撮影を進めます。これにより、予期せぬトラブルや不快感を未然に防ぎます。
- 心理的サポート:俳優が心理的な負担を感じることなく、シーンに臨めるようサポートします。必要に応じて心理カウンセリングの専門家と連携することもあります。
インティマシー・コーディネーターの導入には、以下のようなメリットがあります:
- 俳優の心理的・身体的安全の確保:俳優が安心して演技に集中できる環境を提供します。
- 作品の質の向上:俳優がリラックスして演技に臨めるため、シーンのリアリティや説得力が高まります。
- 法的リスクの軽減:適切な同意確認と安全対策を講じることで、法的な問題を未然に防ぎます。
日本での今後の課題
日本においてインティマシー・コーディネーターの重要性が認識され、広く導入されるためには、以下のような課題があります:
- 認知度の向上:映画・ドラマ業界全体でインティマシー・コーディネーターの役割や必要性についての認識を深めることが必要です。セミナーや研修を通じて、その重要性を周知する取り組みが求められます。
- 専門職の育成:インティマシー・コーディネーターとしての専門知識とスキルを持つ人材を育成するための教育プログラムの整備が必要です。海外の事例を参考にしたカリキュラムの導入が考えられます。
- 業界の意識改革:伝統的な制作スタイルから脱却し、俳優の権利や安全を最優先する制作環境を整えることが求められます。これは、プロデューサーやディレクターを含む制作陣全体の意識改革が必要です。
まとめ
インティマシー・コーディネーターは、現代の映画・ドラマ制作において不可欠な存在となりつつあります。俳優の心理的・身体的な安全を確保し、作品の質を高めるためには、彼らの役割が重要です。日本においても、その必要性が認識され、広く導入されることが期待されます。今後は、認知度の向上、専門職の育成、業界の意識改革を通じて、安全で質の高い作品作りを目指すことが求められます。