双子の胎児のDVDの美しさに感動した基。何度も何度も、繰り返し見ながら基は決心した。
産んでください
「産んでください」基はリキに電話した。ちょっと驚くリキ。でも、基は決めたのだった。命を守ろう、守りたいと。
悠子が離婚、リキが妻に?
基は悠子のもとへ行き、「彼女に、産んでくれって言った」と告げた。何か、縁があってあの双子は生まれてくるんだろうと、基はそう思った。
基は、悠子の離婚の申し出に応じることにした。だが、条件がある。
自分ひとりでは育てられない。だから、彼女、つまりリキに妻として、親として子育てしてほしい。子供の幸せを願うなら、産みの親が育てるべきだと。悠子の意見でもあった。そのことを、リキに言う必要があった。
妊娠30週
さすがに双子の妊娠はきつい。お腹も大きくなり、胎動も2か所でうごめいている。身体は、しっかり母親になりつつある。でも、心は?心はまだ母親仕様にはなっていないのに。
リキの食欲は旺盛だった。毎日家政婦さんの杉本さんが作ってくれるおかずが、おいしすぎたのだ。
管理人さんと杉本さんから、早くも出産祝いをもらった。絵本だった。数冊あるうち、「ぐりとぐら」もあった。
子供が生まれてからも、ずっとこの家に住んだらどう?と言われた。嬉しさとありがたさ、申し訳なささに、リキの心はいっぱいだった。
「いや、そういうわけには」
「大丈夫だよ、この家は適当だから」
リキ、仕事がんばる
リキは、リリコの仕事のプロデュースをがんばっていた。なかなか決まらないが、いつか個展を成功させたい。
リリコは、自分の気に入らない客には、絵は1000万でもいらないと突っぱねている。そんなリリコの姿をリキはリスペクトしていた。
リリコの絵は、単なる春画ではない。男女の平等を、絵で描いている。実社会はまだまだ男性優位だ。リリコの絵の中では、女は男と対等。それがリキには気持ちがよかった。
新たな提案
出産したらお金をもらってすぐに去るつもりだったリキだが、思いもかけない展開が待ち受けていた。
悠子、リキを訪ねる
悠子がリキを訪ねてきた。リキは、お腹の子供たちのことを話し始めた。二人の子供を育てている、「全能感」のようなものなのか。
悠子が話を始めた。「私、基とは復縁しないことにしたのよ。」
「どういうことですか?」リキは驚いた。「出産したら悠子さんが籍を入れて、私は籍を抜くっていう約束ですよね。」
「で、でもね、気持ちが離れてしまったの。それでねリキさん、草桶の妻になってほしいの。」
あっけにとられるリキ。「待ってください、悠子さん、無理ですよ。」
リリコもたまらず口をはさむ。「そうだよ、あんたたち、出産だけじゃなくて、妻まで押し付けんの?」
「代理母から本当の妻になったら、お金の心配も無くなるでしょ。どう?いい提案じゃない?」
リキはもちろん拒否した。それは無理だし、そのつもりもなかった。自分は産んだら消える約束だし、そういう契約だ。それは身勝手ではないか。一方的すぎるのだ。
ただ、お金の保証はある。基の妻でいられるなら、お金には困らない。リキのもともとの代理母契約の目的は、お金だったからだ。
だが、自分の人生を決められるのはちょっと違うと思う、とリキは感じていた。リキはあくまでも拒否した。すると…
悠子「お腹の子供が基の子ではないとしたら、基は残りの500万を払うかしら?それでいいの?」
それは困ります、とリキ。そして、これは悠子のエゴであるとも言った。
二人の話は平行線だった。
千味子の提案:1年契約
基は、千味子に打ち明けた。悠子は離婚して出ていく。だが、リキも籍をそのまま入れるつもりもない。
千味子「じゃあ、どうやって育てるの?双子よ。絶対に無理。あなたと私でどうやって育てるの?今でさえ、用意しなければならないことがたくさんあるのに。」
千味子は突然、妙案を思いついた。
「じゃあ、どちらかに1年だけ育ててもらえば?1年だったら、母親としての経験も楽しめるし、子供も母親の記憶が残らない。1年ならいいんじゃない?」
千味子さん、さすがに恐ろしいこと言いますな
妊娠34週目
リキのお腹はますます大きくなり、動くのも辛かった。ベッドに横たわり、絵本を読むことも多くなっていた。
そこへ訪ねてきたのが、基だった。基は、話し始めた。
「子供の父親については不問にする。生まれてから遺伝子検査しようと思っていたが、今はそれもやめる。契約の500万も払う。」
リキは、ホッとした。だが、それだけではなかった。
「だが、その代わりとして、1年だけ子育てをしてほしい。妻にならなてもいい。あなたもお腹を痛めて産んだ子供と離れずにすむし、お産で弱った身体を休ませることもできる。」
「一年というのは、どういう線引きですか?」
「1年なら、子供はあなたの顔を覚えていない。子供にあなたの思い出を植え付けたくないんです。あなたの拘束時間も短くできる。どうですか?」
悠子の決意は?
悠子には新しいイラストの仕事が来ていた。日本各地を旅行してイラストにしてもらう仕事だ。悠子は断った。
「ちょっと無理なんです。当分、東京にいないと。」
悠子も、自分の中で気持ちが変わっているのをどこかで感じていた。
破水
悠子は基と話していた。「この仕事で、こんなに自分の感情が揺れ動くことは想像もしていなかった。だから、答えは産んでから決めさせてください。でも、遺伝子検査だけはしてくださいね。」
そのとき、じゃっと音がした。リキの足元が濡れている。
「どうしよう、破水したみたい。」
あわてて、どうすればいいのか分からずにウロウロしている基。
杉本さんも来て大慌て、大騒ぎだ。どうするべき?救急車?かかりつけ医?
「賽は投げられた。」by 基