毎日保健室登校を続けていた佳純(伊東蒼)は、3人目の科学部員として入部が決まった。これで科学部は正式な部として高校から認められ、活動を続けていけることになった。
天体の衝突は、時に様々な生物の絶滅の原因になる。しかし同時に、新しい別の何かの始まりでもある。(語り 藤竹)今回のお話のテーマでもあります。
クレーターの実験
隕石が落ちると、その部分がへこみ、クレーターができる。隕石の大きさや重量によって、クレーターの大きさは違ってくる。
科学部はそんな実験を繰り返していた。データが蓄積されていく中、「もっとデータがほしいな」と藤竹(窪田正孝)。
岳人(小林虎之介)が「もっと高いところから落としたらどうかな」と発言する。「それもありですね」と藤竹。
岳人は、どうしたらもっと高い所から落とせるか、そんな場所を探していた。アンジェラ(ガウ)は計測、佳純はデータの記入と、それぞれの持ち場でやる気を出していた。
長嶺の欠席
長嶺省造(イッセー尾形)は、もう長い間学校に来ていなかった。
「長嶺さん、どうしたんだろう。ずっと出席していたのに」と心配するアンジェラに、岳人はそっけなく答える。
「べつにいいじゃん、静かで」
岳人は以前より長嶺と折り合いが悪かった。岳人にとって長嶺は「うるさいじいさん」、長嶺にとって岳人は「素行の悪そうな不良」というイメージだった。
長嶺は藤竹に呼び出されて、科学室へ足を運んだ。
藤竹「長嶺さん、どうです、身体の調子は?」
長嶺「はい、来週からは学校に出られると思います」
長嶺はふと、藤竹が手に持っているのモノを目にして、それは何かと聞く。藤竹は、クレーターの実験を説明した。小さい鉄球と、少し大きい鉄球をそれぞれ砂の上に落としてみせる。
長嶺は「玉が落ちるスピードにもよる」と言う。長嶺は金属加工の工場を経営していたことから、藤竹は長嶺を科学部に誘うが、長嶺は断る。
実は、長嶺は肺の病気を患っていた。医者からは、肺の状態に改善が見られないので、別の治療を試してみようと言われていた。
久々の教室
長嶺は、久しぶりに授業に出席した。心配していたアンジェラも「よかったね」と声をかける。長嶺の病気のことを知る生徒は誰もいない。
英語の授業で、質問を繰り返す長嶺。そのたびに授業の進行が止まるので、岳人が長嶺に文句を言う。すると長嶺は「この教室で真面目に授業を聞いているのは前の2,3人だけだ。あとは、寝てるか、スマホいじってる。(岳人に向かって)イヤホンをさしてずっとタブレットを見ている。やる気のないやつばかりだ。やる気のないやつは、とっとと出ていけ」
岳人がイヤホンをしてタブレットを使っているのは、ディスクレシアのためにそれを補う装置として授業に必要だったからだ。そのことを長嶺は知らなかった。
すると、ぞろぞろと全員が教室から出て行ってしまった。
「出ていけと言われて出ていくようじゃ、どうしようもないな」長嶺はつぶやいた。
集団ボイコット
教室に出てくるのは、長嶺とアンジェラだけになってしまった。
木内と藤竹に呼ばれた長嶺は、「長嶺さんがいる教室には行きたくない」と、クラスのみんなが集団ボイコットをしていることを聞かされた。
長嶺は、自身のことを話し始めた。福島の炭鉱の村に生まれた長嶺は、自分が10歳のとき、父が炭鉱の事故で亡くなてしまった。地方で働く場もない長嶺は、中学を卒業すると「集団就職」で東京に出てきた。いわゆる「金の卵」というやつだ。
それから死に物狂いで働いてきた長嶺は、今の若い者を「もったいない」と言う。「今の自分たちがどれほど恵まれているのか、分かっていないんだ」
藤竹は、廊下を歩きながら長嶺に科学部のみんなが考えた発射装置の図面を見てもらった。ひと目見ただけで、永見芽は「なかなか良いアイデアだが、本体の強度が問題だ」と意見を述べた。だが、科学部でない自分は何も言えないと黙ってしまう。
藤竹は、長嶺の生い立ちの話をクラスのみんなにしてくれないかと頼む。定時制の特徴は、年齢も環境もバラバラの人間が集まってひとつのクラスを作ること。それぞれの環境が違いすぎるので、小さなことでも不満が爆発する。それは、お互いのことを知らなすぎるからだ、というのが藤竹の思いだった。
「理屈は分かるが、まあ、無駄だね」そう言って長嶺は帰っていった。
妻のお見舞い
帰宅した長嶺は、何かを思いついたようにスケッチブックを取り出し、何やら一心に描き始めた。
翌日、長嶺は病室にいた。長嶺の妻は、長いこと入院生活をしていたのだ。
妻は、いつも教室でのことを面白おかしく話す長嶺の様子が変わってしまったことに気づいていた。最近は何も話さなくなったからだ。
理由を聞かれた長嶺は、自分のせいで生徒たちが集団ボイコットをしているのだと明かした。
妻は長嶺に「親ガチャ」のことを説明する。
自分たちの時代は、恵まれていたとしてもせいぜい「高校に行ける」程度だった。だが、今の人たちはキラキラしたものをいっぱい見すぎている。どんな親の元に生まれたかで、ある程度人生が決まってしまうと思っても仕方がないんじゃないか、と。
長嶺は妻の言葉をじっと黙って聞いていた。
人の苦しさは比べられない
長嶺は、高校の靴箱で佳純の手首にリストカットの跡があるのを偶然見てしまった。
アンジェラに「あの子は?」と尋ねると、アンジェラが話し始めた。
「あの子は、1年生の佳純ちゃん。科学部で一緒なのよ。何があったのかは、分からない。だけど、定時制に来てる子たちは、みんないろいろあって、それぞれの悩みを抱えているの。みんな苦しいのよ。人の苦しさって、比べられるものじゃないでしょ」
「読み書き」の教室に通う岳人
長嶺が街を歩いていると、とあるビルに入っていく岳人を見かけた。長嶺があとをつけていくと、「LD教室」と書いてあるドアの向こうで、岳人が読み書きを習っているのが見えた。
おいてあるパンフレットを読んだ長嶺は、ディスクレシアについて初めて知ることができた。岳人が授業中、イヤホンをしてタブレットを使っていたのは、「音声で聞き、ふりがなのついた画面のタブレットを使うことにより、学習する」ためだったのだ。
長嶺の中で、これまでの岳人の授業中の行動がすべてつながった。長嶺は呆然とベンチに座ったまま動くことができなかった。
発射装置の設計図
長嶺の妻は、夫が置いていってくれたノートに一枚の紙がはさまっているのを見つけた。
長嶺は藤竹に「この前の、自分の話をみんなの前でするってやつ、やってもいいよ」と伝えた。「その代わり、やり方はオレにまかせてくれ」
科学室に入ってきた岳人は、テーブルの上に置いてある一枚の紙を見つけた。「これ!発射装置の設計図じゃないか!」
岳人は意気込んで、すぐに作る準備に取り掛かった。
藤竹は、「今度の総合の授業、就職の話をするので必ず出席してください、お願いしますよ」とくぎを刺した。
総合の授業
総合の授業には、これまでボイコットしていた生徒も集まった。長嶺は、話を始めた。
福島から上野まで、就職専用の列車に乗った。隣のやつは悔しいと涙を流していたが、オレは絶対に負けないと誓った。そのとおり、オレは負けずに働き、工場まで作った。だが、話したいのはオレのことじゃない。妻のことだ。
妻もオレと同じく、集団就職で上京し、蒲田のタイル工場で働いた。昼夜2交代せいで、早番だと朝の5時から勤務だ。タイル工場の仕事は、頭のてっぺんから足の先まで白い粉まみれになる。妻は人の嫌がる職場で率先して働いた。25歳でオレと結婚してからも、工場の切り盛りや子育て、家事など、すべて妻に任せていた。
妻は勉強が好きだった。タイル工場は2交代制だったので定時制の高校に行けなかったので、子どもが成人してそれぞれ家庭を持つようになったら、夢だった定時制の高校に行くことを考えていた。
ちょうどその時、妻に病気が見つかった。「塵肺(じんぱい)」である。タイル工場で粉を吸いすぎたために、肺の機能がやられてしまったのだ。今は入院している。だから、本当に高校に行きたかったのは、オレじゃなくて妻なんだ。
アンジェラは長嶺の話を聞き、「授業中にたくさん質問していたのは、奥さんに授業をしてあげるためだったのね」と言った。
長嶺の話に生徒たちは心を打たれ、終わったときには拍手をしていた。木内の「ブラボー!」という声が教室に響いた。
どんな授業よりも、人の生きて来た歴史を聞けるのは意味があることだ。教科書では決して学べないから。
長嶺、科学部へ
長嶺は藤竹に呼ばれて科学部の実験室に行った。岳人は完成した発射台を見て「これなら実験できるな」と喜んでいた。長嶺は驚いた。それはなんと、自分が設計した発射台が完成したではないか。
この発射台を設計したのが長嶺だと聞いて驚く岳人。
藤竹は、長嶺の奥さんから呼ばれて「夫を科学部に入れてやってください」と設計図を渡されたのだった。
妻と藤竹に「してやられたな」と苦笑いを浮かべる長嶺。
長嶺は、「物理学講座」と書いてある分厚い本を手にした。岳人のメモ書きが付箋にびっしりと書き込まれていた。
長嶺が4人目の科学部部員になることが決定した瞬間だった。
藤竹がみんなに提案する。「せっかく科学部ができたことだし、どうせなら、大きな目標を持ちませんか?」
けげんな顔をする部員たちに、藤竹がひと言。
「学会発表とか」
実際の集団就職
下の写真は、昭和43年の集団就職の一コマです。列車の窓越しに母親が我が子との別れを惜しんでいます。このような光景が至るところで繰り広げられていました。
中学卒業してすぐに、地方から一人、列車に乗って東京へ働きに出ます。子どもはどれほど心細かったことでしょう。母親も、そんな我が子が不憫でならなかったはずです。
今は、勉強したいと思えばいくらでも勉強の方法があります。「今の子たちは、もったいない」と思う長嶺さんの気持ちも、よくわかります。