「地面師」と「地上げ屋」の違い:実際に暴力団から地上げされた体験談

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ドラマ「地面師たち」が大人気で、衰えを知らないほどです。この人気はおそらく細く長く続くでしょう。続編が配信されたら、また人気に火がつくでしょうね。

ところで、一般人には耳慣れない「地面師」ですが、ところどころで「地上げ屋とどう違うの?」「地面師と地上げ屋は同じ?」という声を目にするようになりました。

そこで、この記事では「地面師と地上げ屋の違い」について説明し、さらに私が実際に地上げにあった体験談をお話します。

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目次

「地面師」と「地上げ屋」の違いとは?

そもそも、一般人にはほぼ一生に一回も地面師とも地上げ屋とも面識がないだろうと思います。面識がないほうが幸せな人生かとも思います。

不動産の売買は一度か二度、人生で経験するかもしれませんが、普通の取引では地面師も地上げ屋も出てきませんし、地面師に至っては出てきてもらっては困ります。

「地面師」は詐欺行為をする犯罪者

ドラマ「地面師たち」より

ドラマ「地面師たち」をご覧になった方ならお分かりだと思いますが、地面師というのは「他人の土地を勝手に売ってお金をもらったら高跳びする」悪い人たちです。つまり、不動産詐欺の犯罪者です。

「自分の土地を勝手に地面師に売られたらどうしよう」と怖がっている人がいますが、大丈夫です。ドラマでも、自分の土地を勝手に売られた尼さんも、どこかの誰かが自分の土地を「儲けのネタ」に使っただけで、地主になりすました人間も嘘ですし、地面師の用意した書類もろもろも偽物ですから、所有権が勝手に移ることはあり得ません。

なので、「地面師に引っかからないように」気を付けなければならないのは、「いい土地がありますよ」と持ち掛けられた不動産会社の側です。詐欺かどうかを見破るには、しつこいほど地主の本人確認を行えばいいだけです。

「地上げ屋」は人の土地を買う仲介業者(たまに不動産屋も兼務)

例えば、大手のデベロッパーや不動産会社(この線引きは微妙)が「マンションを建てたいな」とか「大型店舗を作りたいな」などと考えたとき、それだけ大きな土地を最初から確保するのは難しいでしょう。日本の国土は狭いですから、特に大都市圏では小さな土地をまとめて買い集めなければ、大きな土地を確保するのは厳しいです。

そこで登場するのが「地上げ屋」です。一般的に、地上げ屋は一人もしくは複数人の小さな会社、もしくはフリーで行うことが多いですね。法人で、業務内容が「地上げ」なんて書けませんからね。

ただ、大きな不動産会社でも「地上げ部門」というのはあります。「開発部門」のひとつのセクションで、もちろん表向きは地上げなどと謳ってはいません。「地上げ」には怖いイメージがつきまといます。

いろいろな地上げのパターンがありますが、一番きれいな地上げとしては、大手の不動産会社が地上げ屋さんにお願いして、ほしい土地の地主さんに交渉してもらう、そういうことです。

もちろん、最初は大手の不動産会社の営業さんが地主さんに直接お願いすることもありますが、売る気はないとか言われた場合、次の段階として地上げ屋さんにお願いすることになります。こうして、だんだん怖いことになってきます。

ですが、地上げそのものは悪いことではなく、「お宅の土地、売ってくれませんか」と地主にお願いに行き、OKが出れば「売ってくれますって」と不動産会社に報告し、仲介料を取るだけの簡単なお仕事です。(簡単でもありませんが)

今は、暴対法がありますから暴力団が表に立って地上げ屋として交渉することはできませんし、そんなことしたら警察が喜んで逮捕しに来るでしょうし、組もつぶされることでしょう。

地上げされた体験談

ここで、私が実際に地上げされた体験談をお話しします。あまり大っぴらに言う話でもないのですが、別に隠す話でもないので、こうしてブログに書いてみることにします。

というのも、たまに友達にこの話をするとすごくびっくりされて、声も出ないんですよね。「本になるね」ともよく言われるのですが、こんなちっぽけな話は本になるはずもなく、かといってアマゾンでkindleにして無料で配るのもバカらしいので、記事に書くことにします。

主人が祖父から受け継いだ小さなビル

あれは、バブル真っ盛りのころ、1987年とか、そのころだと思います。

主人の祖父が、東京の上野に小さな小さなビルを持っていたんです。私はそのビルに行ったこともないんですが、たいしたビルではなかったそうです。

そのビルが、ある日地上げにあったんですよね。ビルはいわゆる雑居ビルで、1階に不動産屋が入っていて、その不動産屋から「地上げにあいました」という旨の電話がかかってきました。

その時は、私、主人、主人のお義母さんと3人家族でしたが、主人も義母も「売ればいい」と言うので、売ることにしました。

契約の日も決まり、内金(頭金)がその時に現金で支払われることになりました。なぜ現金なのかは、その時は分かりませんでした。何しろ私は26歳か27歳、主人も30歳そこそこでしたし、不動産の売買も経験もありませんでしたから、ビルの1階の不動産屋さんにすべてお任せしました。

契約の日がやってきた

さて、契約日に私と主人は上野のビルに出向きました。いろいろありましたが、細かいことは忘れました。さて、上野のビルの不動産会社に行きますと、「これから仲介業者のところに行きます」と言われました。

そして、主人と私に「絶対に何も話さないでください。」と言われました。どういうことなのだろうと思いましたが、そのとおりにすることにしました。

出向いた先は、少し歩いた別の小さなビルでした。そこに、仲介業者がいるということです。そもそも、うちのビルの1階の不動産屋だって仲介業者のはずなのに、まだ先に仲介業者がいるのです。なかなか複雑だということは分かりました。

私と主人と銀行員と不動産屋

おっと、忘れていましたが、もう一人一緒についてきた人がいました。銀行員です。この銀行員は、うちがいつも預金をしている銀行さんですが、別にお抱えの銀行マンというわけではありません。

こういう取引がある、ということを義母が銀行に言ったのでしょう、そのへんは私のあずかり知らぬところですが、銀行としては何としても自分の銀行に入金してほしいじゃありませんか。だから、私と主人について来たのです。現金取引と聞き、そのまま銀行に入金してもらおうと思ったのは間違いありません。

主人と私、銀行さん、そして不動産屋は、いよいよ取引場所のビルに着きました。

雑居ビルの中にヤクザの事務所があった

ビルの中に入り、扉を開けると、どこかで目にしたような光景が見られました。一瞬「あれ?」と思いましたが、「どこかで目にしたような」というのは、私がよく観ていたヤクザ映画のシーンでした。

「ヤクザと家族」という映画をご覧になった方がいらっしゃるなら、綾野剛が最初に通された組事務所を覚えていますか?小さな部屋に、親分のいるテーブル、その前にソファ、家具としてはそんな感じです。ただ、調度品がすごい。いかにも成金をイメージさせるような、そういう調度品です。壁にも何かかかっていましたし、それらがすべて「ヤクザ映画」そのものでした。

私は、ああ、これが組の事務所なんだ。映画で観るのと同じだな、と心の中で思っていました。自分がまるで映画のワンシーンに出ているような錯覚すら覚えていました。

不思議と、恐怖感はありませんでした。何も、こっちの事務所の落とし前をつけに行っているわけではありません。向こうさんがうちのビルを「買わせてください」というから、売るだけの話です。うちがゴネていたら脅されていたかと思いますが、「どうぞどうぞ」と売るつもり満載です。ウィンウィンの関係とはまさにこのことです。むしろ、こちらのほうが立場が上だったので、普通に不動産取引をするつもりでした。

しかし、横を見ると主人は緊張でガチガチになっています。その横の銀行員も、まだ若かったからでしょうか、もっとガチガチになっています。動作がロボットみたいになっていました。

アタシェケースから出てきた札束は1億円

さて、不動産取引に入ります。主人も私も、あらかじめ言われたとおり何もしゃべりませんでした。あとは、不動産屋の言うとおりに、印鑑を押し、サインをしていきます。もちろん、主人の名義のビルなので、私はただ見ているだけです。

相手は、親分と思われる人が正面に座っていて、その後ろに子分(組員)が3人、直立不動で並んで立っています。このあたりも、映画と同じです。ヤクザ映画って、よく研究して作られているものだと逆に感心してしまいました。

特に怖いこともなく、淡々と書類確認が進んでいきます。不動産取引ってすごく面倒なんですよ。一般住宅の場合、ローンが入りますから、さらに複雑で、担保がどうとか、抵当権がどうとか、すごく面倒なんです。でも、今回は一括支払いですので簡単です。(ということも、後から知りました)

一括と言っても、今回は頭金で、残りは全額近日中に支払われます。このあたりのことも、記憶がおぼろげで主人に聞いても「全然覚えてない」ということで、正確なところは分かりません。

ところで、ビルの買主は誰だと思いますか?買主のところに書いてあった名前は、不動産屋さんの息子の名前でした。おそらく、本当の買主はまだこの先に隠れているのでしょう。結局誰が本当の買主だったのかは、私たちには分かりませんでしたし、別に知りたくもなかったのが本音です。

さて、いよいよ頭金が支払われることになりました。親分が子分にアタシェケースを持ってこさせて、テーブルの前で開きます。

出てきたのは、正味一億円の札束です。

銀行さんの出番です

さあ、これを数えなければなりません。銀行さんはそのために来ていたのです。

思えば、ヤクザは現金取引専門なのでしょうね。現金は足がつきませんから。なるほど、ヤクザが頭金を払うときはは現金なのかとその時知りました。

さすがプロの銀行マンは、お札の枚数を数えるのは手慣れたものです。おそらく、ヤクザの前で数えるのでいつもよりは手が震えていたかもしれませんが、さすがですねという数えっぷりでした。

きっちり、一億円確認してもらいました。私たちは、その間ずーっと銀行さんの手元を見つめていました。銀行さん、かなりやりにくかったと思いますが、何しろ一億円を後にも先にも現金で見たことはこれっきりですし、銀行さんが1億円をきっちり数え上げるのを見るのもなかなか面白かったです。

これで、ヤクザさんとはおさらばです。それ以来、ヤクザとの関わりは、当たり前ですがありません。あの人たちは今頃どうしているだろう。 暴対法で今はしょぼくなっているでしょうし、あのビルも無くなっていることと思います。

でもまあ、仲介料で儲けているので、あのヤクザはうちのビルだけでなく、あのあたりのビルを相当数地上げしているので、一生遊んで暮らせる分くらいの仲介料はせしめたのではないかと思います。

しかし、あの人たちは真面目にコツコツ定期預金に回すなんてことは考えもしませんから、あっという間にお金も消えてなくなってしまったことと思います。

「あぶく銭」と言いますもんね。

もっとも、あの頃は「バブル期」。文字通り、泡と消えてしまったことでしょう。

どうでしょうか、少しは面白く読んでいただけたでしょうか。

この後、あの銀行さんが大変なことになったのですが、続きは長くなるのでまた今度。

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