「紙の月」はもともと角田光代の長編小説を、日本でまずNHKのドラマとして制作・放映したものが最初です。次に、映画として全く別の俳優陣で制作・放映されました。韓国ドラマは日本版のリメイクとして作られました。韓国ドラマの「紙の月」は一番新しい作品です。
私は3作品とも観ているので、日本版と韓国版の違い、さらに韓国版「紙の月」の感想をお伝えします。
日本版「紙の月」ドラマと映画、韓国版ドラマ「紙の月」の違い
私は、日本のNHKドラマ「紙の月」は2回観ています。映画を観てから、もう一度ドラマを見返すために、NHKオンデマンドに入会したというツワモノです(そんなツワモノでもないですね)。
紙の月は、U-NEXTで2回観ました。韓国版は全20話もあるので、通して1回だけ観ました。
NHKドラマ「紙の月」
まず最初に、NHKで放映されたドラマ「紙の月」から。主演は原田知世。相手役は満島(みつしま)真之介。俳優としては、どちらも初々しい感じ。もちろんこの時点で原田知世は「おばさん」の年齢のはずなのですが、相変わらずかわいらしくて、恥じらいのある主婦を演じています。満島は文字通り初々しい青年で、演技も、原田知世に引っ張られて、演じながらも演技力が上がっていくのがわかりました。
ドラマなので映画版よりは内容も濃いが、原田知世は「初々しさ」から抜け出せない印象。それがよかったのかもしれませんが、ドラマ版と比べてしまうと、俳優のすごみが欠けているなあと思いました。
ただ、やはりNHKは演技派の俳優をそろえているなあとあらためて感じました。内容としては、満島が監督するドラマに原田が出演する場面は、無くても良かったのでは?と思いました。それよりも、旦那(光石研)の心理状態をもっと深掘りしてほしかったですね。
日本版映画「紙の月」
主演・宮沢りえ。相手役・池松壮亮(いけまつそうすけ)。この二人の名前を聞くだけでも、ゾゾっとするのは私だけでしょうか?それくらい、個性が強くて出てきただけでゾっとなります。もちろん、いい意味で。この二人がそろったら、面白くないはずがない、と思ってしまうんですよね。
二人とも、どんな役にもなりきれるので、NHKドラマの原田知世・満島真之介を何倍にも「濃い」人格にしてしまう魔法を持っているのです。「圧倒的な存在感」とでもいうのでしょうか。二人のセリフ、ひとつひとつが五臓六腑にしみわたってくるような感じです。
宮沢りえは押しも押されぬ俳優ですが、池松壮亮も決して宮沢に引っ張られている感じはありませんでした。奨学金に苦しむどこでもいそうな大学生だった池松が、お金を通してどんどん変わっていく様は異様でした。おずおずとした視線だったのに、どんどん「上から目線」になっていくんですね。
あの目線だけで「お金の怖さ」を私たちに突き付けることができるのは、池松壮亮以外にはいないのではないでしょうか。
映画なので、ドラマよりはずっと時間が短いのは当たり前なんですが、視聴後の印象は映画版の「紙の月」のほうがズシンと来るのは、やはり宮沢りえと池松壮亮の二人の演技力がもたらしたものと言えましょう。
筋書きは、どちらも同じです。ただ、ドラマのほうは枝葉があります。映画は、その枝葉が無くても、太い幹だけで十分見ごたえのある作品になることを思い知らせてくれました。
俳優陣は、他に大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美といった錚々たるメンバーです。どの俳優さんも見ごたえたっぷりで、特に大島優子は本当に銀行員をやっていた経験があるのではないかと思ってしまうほどです。
韓国版ドラマ「紙の月」
主人公はユ・イファ(俳優・キム・ソヒョン)、相手役はユン・ミンジェ(イ・シウ)。主人公のイファは、知的で清楚な大人の女性。ミンジェは好青年で、貧困にもめげず映画の脚本を書いており、映画監督になるのが夢。
日本版の映画とドラマでは、筋書きは大きな違いはありませんでしたが、韓国のリメイク版はさすがに筋書きで圧倒していました。大筋は「主婦の不倫と銀行詐欺」ですが、まったく別物のストーリーになっていて、さすが韓国だと思いましたね。
それも当然で、全20話ですから、太い幹だけでは内容が足りません。枝葉もたくさんつける必要があるのですが、その枝葉がそれぞれ太くて、どれもニョキニョキと伸びていきます。私たちは、太い幹(つまり、本筋の話)のみならず、四方八方に伸びた枝葉にも興味津々で観ることになります。
日本版では、主人公の不倫と詐欺を描いていますが、どちらかと言うと「銀行詐欺」に重きを置いています。不倫がバレるとかバレないとか、そっちの方面はほとんど描かれていませんが、韓国版のほうは、「不倫がバレるかバレないか」という面でもハラハラドキドキさせられます。
さらに、主人公の二人の女友達にも焦点が当たります。日本版では、主人公に友達は登場しませんでした。さらに、韓国版は主人公の旦那の生き方や考え方、会社での不条理などにもかなりの時間をかけて描いています。旦那の友達も二人登場します。日本版では、旦那は「主婦の気持ちを理解しようとしない、無神経な男」として描かれているだけです。
日本版では、最後に会社のガラスを椅子でバーン!と割る場面が出てきますが、韓国版では、大衆の注目を集める場所でガラスを割り、全国ニュースにもなります。
さらに、韓国ドラマの性格上、主人公の住んでいる家、途中で主人公が相手役のために借りてやる家も豪華で目を見張ります。日本では、相手役に借りてやるのは賃貸マンションでした。
なお、日本版では、相手役が最後まで大物になれない「監督を夢見る男」でしたが、韓国版では世界的な賞を受賞し、韓国でもどんどん人気になり、投資家もついてくるという設定です。
最後のシーンも、日本版とは違います。タイに逃げるのは同じですが、日本版は国境の警備隊に自ら足を運ぶ、つまり主人公が自首するために歩いていく場面で終わります。
韓国版では、タイの田舎に移り住んでいる主役のもとに、後ろから足音が聞こえてきて、主人公は目に涙をためて振り返る、そんな場面で終了です。
韓国「紙の月」の最終場面は何を意味する?
「紙の月」最後の場面。タイの田舎、河辺に立ち、夕暮れの月を見ているイファ。幻想的なシーンですね。この後、後ろから誰かが近づいてきます。それが誰なのか?まったく分かりません。あとは視聴者の想像におまかせです。
日本版を観た人は、追手がついに迫ってきたと思うでしょう。何しろタイの田舎に韓国人の女性が住んでいるのです。噂になるでしょうし、イファは国際指名手配犯で、顔写真も出回っています。
ついにタイの警察が感づいたか?と思ってしまったのは私だけではないでしょう。
ですが、もしもイファの味方だったら?と考えずにはいられません。ミンジェが来たのか?最後、ミンジェはやはりイファのことを本当に愛していたことを思い出していました。
旦那か?最後は、旦那も「イファ、イファ」と声に出して泣いていました。旦那の態度は横暴でしたが、自分が愛していたのはイファだけだと、やっと気づいたのです。
イファを探して会いに来た人が味方だとしたら、この二人の男のうち、どちらかでしょう。友達は「イファのことを待っていようね」と二人で話していましたから、タイに来ることはないでしょう。
イファは大きな詐欺を働いたので、逮捕されても仕方がありません。でも、お金を撮られた後で、誰もイファのことを悪く言わず、訴えることもありませんでした。もっとも、訴えたくても裏金だったので、訴えたら自分たちが捕まってしまうからです。
やはり、イファに会いに来るのは「愛」が理由としか考えられません。イファを応援したい私としては、ミンジェが来てくれたらいいなと思いつつも、それも「はかない夢物語」であると心のどこかでは分かっているのです。
「紙の月」というタイトルは非常に象徴的で幻想的です。結局、月は本物ではなかった。この場合、月は幸せを意味します。
ぺらっとはがれて落ちてしまうような、紙でできた月。
韓国ドラマ「紙の月」は、日本版を観た人でも絶対に後悔しない仕上がりになっています。おススメです。ぜひご覧ください。U-NEXTでもNetflixでも見られます。