清家には大学時代につきあっていた美恵子という恋人がいた。彼女がまだ今でも裏で清家を操っているのか?鈴木の交通事故の裏にも、美恵子がいるのか?謎の女の登場で、ストーリーは複雑に過去と未来が絡み合っていく。
美恵子はどこに
これまで清家の単独取材を許されていた香苗だったが、突然、今後一切の取材を受けないと告げられる。
もともと香苗は、父の事故にも、武智議員の事故にも、鈴木(清家の秘書)が関わっていると見ていた。だが、その鈴木も交通事故に巻き込まれ、疑問は振り出しに戻った。裏にいるのは誰なのか。
元恋人の存在を知った香苗は、手がかりを求めに、美恵子(おそらく仮名だろう)を捜しに行動に出ることにした。
マトリョーシカを見つめる清家。秘書官から、道上の取材を拒否することにしたと報告を受けた。
「なぜ急に取材を切られたんだ?」社会部の記者、山中はいぶかしがった。
「わかりません、清家に、鈴木は危険だと忠告したからでしょうか?」
「でも、その鈴木も不審な事故にあった」
それを仕組んだのが、元恋人の仕業だったとしたら?
鈴木の不安
鈴木はうなされて病院のベッドで目を覚ました。
高校時代の同級生で、今は清家の後援会長をしている佐々木が駆け付けた。佐々木は清家と香苗が会う料理屋の店長でもある。
鈴木は、佐々木に尋ねた。
「おまえ、三好みわこを覚えているか?今、彼女がどこにいるか知ってるか?」
突然その名前を聞いてちょっと驚いたような佐々木は答えた。「ああー、覚えている。知るわけないやろが、俺が。」
清家の大学時代の友人
香苗は、清家の大学時代の友人の女性、佐伯エミを訪ねた。教授からの紹介である。
大学時代はどんな学生だったかと尋ねると、特に目立つふうでもなく、普通の学生だったと答えた。ただ、鈴木俊哉のことはよく覚えていた。東大生で、清家とよく一緒にいたという。
「ふたりのうち、どちらかが主導権を持つとか、そういう印象はありましたか?」
「それは断然鈴木君です。清家君は純粋すぎて、どちらかと言うと危なっかしいところがありましたから。」
女性は、清家の元恋人、三好美和子のこともよく覚えていた。美和子は別の大学の女性だが、脚本家を目指して香川から上京したと言っていた。強くて、自信家だとも。
ただ、清家と別れたのか、大学の途中からぱったりと見かけなくなったと言っていた。
美和子の野望
鈴木は、美和子のことを思い出していた。初めて喫茶店で清家と3人で会ったとき、清家のことを脚本にしたいと言い出した。
自分の生き別れた父親が、現役の官房長官だということ、その父親を目指して、同じ大学、同じ官僚という道を清家がたどっていること。
その美和子が、何らかのつてを使って、武智議員に接触してきた。何が目的だったのだろうか。
見覚えのある男
清家は、とある施設を訪問していた。働きやすさの改善についてのプレゼンのようなことをしていた。その時、見覚えのある男を見た。車椅子の男性だが、清家と目があったとたん、自室へ引き返していった。男の表情は重かった。
どこかで見たことがあるが、誰だっただろう。この後、この車椅子の正体が明らかになる。
最後に笑うマトリョーシカ
香苗に、先ほど取材した佐伯から電話がかかってきた。美和子は関東テレビのシナリオコンクールに応募したことがあることを思いだしたのだ。だが、彼女がデビューした話は聞いていないという。
内容は政治もので、清家君をモデルにしたシナリオだという。
タイトルは、「最後に笑うマトリョーシカ」
香苗は関東テレビに連絡したが、個人情報だといって教えてもらえなかった。また、美和子が行っていたという大学に問い合わせても、彼女が在籍した記録はなかった。
武智の元秘書、藤田という男
それならば、武智の元秘書「藤田」ならば、彼女のことを知っているのではないか?そう思った香苗たちは、藤田の居場所を突き止めた。
藤田は足を悪くして、施設に入っていた。その男こそ、先ほど清家と目があった、藤田(国広富之)だったのだ。
だが、藤田は政界を引退してからマスコミの取材は一切断っているということで、面会はできなかった。
それならばということで、香苗と山中は佐々木の料亭に向かった。佐々木は「彼女のことは知っているが、清家のプライベートには答えないことにしている」とお茶を濁して、立ち去っていった。佐々木には含んでいる何かがあるようだった。
だが香苗はあきらめなかった。
施設の「ふれあい」イベントにて
香苗は週末に、勇気を連れて、例の施設のふれあいイベントに参加した。親子で折り紙を折ったりして、施設のひとたちとふれあうイベントだ。
勇気と香苗を送り迎えしてくれた夫(和田正人)は、もしも香苗がこのまま文芸部の仕事をして、事件を追わないならば、また3人で暮らしたいと言った。香苗は文芸部ながら事件を追っているとはとても言えなかった。
そのときだった。香苗は藤田を見つけた。
「清家さんを操っているのは誰ですか?心当たりがあるんですね?」
藤田の話
彼の背後には、何か得体のしれないものが存在していると思う、それが判明するまで記事にはしないと告げると、藤田は心を決めたように、少しずつ話し始めた。
「清家君を操っていたのは、鈴木君ではないと思いますがね。むしろ、鈴木君のことなんて何とも思っていなかったかもしれない。清家君は、自分の心の内を探らせない何かがあった。いや、むしろ心なんてない、と言ったほうがいいのかもしれない。そんなところは、父親にそっくりですね。」
藤田は、美和子のことも覚えていた。一度、武智議員の後援会に来たことがあったのだ。その時、彼女は「私が清家君を27歳までに立派な政治家にしてみせます」と宣言したのだった。
彼女は27歳という年齢にこだわっていた。もし、清家を27歳で政治家にするために武智を殺したとしたら?
そんな疑問を投げかけると、藤田は、武智が事件当時、ある女性と不倫関係にあったことを告白した。ただ、その女性が美和子であるかどうかまでは知る由もなかった。
ただ、武智はその時には自分の地盤を清家に譲る準備をしていた。そのことは、清家も鈴木も、そしておそらくは美和子も知っていたはずだ。だから、事故を起こす理由などないはずだと、藤田は言った。
「何もせずとも、次の選挙で、清家君が29歳の時には政治家になれたはずですから」
しかし、清家が当選してからも、藤田が秘書を続けなかったのはなぜか?鈴木が断ったからだった。だが、その裏には誰かもう一人操っていた人物がいたのかもしれない。そう藤田は言った。
「ハヌッセンは今も、清家君の近くにいる」
藤田は、道上にもその人物に寝首をかかれないよう、気を付けるように忠告した。
夫に見限られた香苗
取材に夢中で、香苗はすっかりイベントのことを忘れていた。とっくに終わっていたイベントに戻ると、すでに迎えに来ていた夫が勇気と一緒に立っていた。
夫は、このイベントに来た理由が、取材のためだったと見抜いていた。決して、勇気のためだったわけではない。
昼間言ったことは忘れてくれと告げ、夫は勇気と立ち去った。
「君が変わらない限り、一緒に住むのは無理だ」
鈴木と美和子
大学4年のある日、鈴木は美和子に、清家と別れるよう言った。清家が彼女の言いなりになっていることに、危機感を抱いていたからだ。
彼女は拒否した。自分が所有し、自分の思うとおりになる清家を絶対に渡さない、と。彼女はシナリオを書いていると言った。タイトルは、「最後に笑うマトリョーシカ」。マトリョーシカはロシアの入れ子人形。
誰が人形の一番芯の部分で、大笑いしているのか、という意味だ。美和子は不敵な笑みを浮かべた。
香苗は鈴木を訪ね、美和子の居場所を聞いたが、鈴木はかたくなに「知らない」と答えた。美和子の居場所を知るには、彼女が書いたシナリオを手に入れるほかない。それができるのは、関東テレビに電話を入れられる鈴木しかいなかった。
料亭で落ち合う約束
香苗に、清家から電話がかかってきた。「今日、料亭で9時まで会合があるので、そのときに裏口に来てもらえば少しはは話せる」と言う。取材拒否は誰の指示だったのかは、清家は答えなかった。
香苗が「三好美和子について話を聞きたい」と言うと、清家はとまどった様子だった。
清家の様子を、政務秘書官はじっと伺っていた。彼も何かに絡んでいるようだ。
清家事務所の誕生
清家が初めて当選したときのことを、鈴木は思い出していた。
清家事務所が初めて誕生したとき、鈴木は自分なりにけじめをつけた。これまでは友達同士としての付き合いだったが、これからは自分を「俊哉君」と呼ばず、「鈴木」と言ってくれ。そして、自分は清家を「先生」と呼ぶと。
「まずは、お父さんの場所を目指すよ」
「官房長官ですか?」
「それともうひとつ。僕には、成し遂げなければならない悲願がある」清家はさらに続けた。
「今後、僕たちの意見が異なったとしたら、最後は僕のジャッジにゆだねてほしい。そして、藤田さんは採用しないことにする。大丈夫、あの人なら働き口ならいくらでも見つかるから」
選挙にあれほどお世話になった秘書の藤田を切るとは、どういうことだろう。
鈴木は当時のことを思い出し、考え込んでいた。そして、ついに心を決めた。
香苗に電話をし、「例のシナリオを手に入れたので、これから関東テレビに取りに行ってください」と頼んだ。鈴木はまだ病院のベッドの上だ。
香苗は時計を見た。今、8時10分。清家に会うのは9時。間に合うか。
清家と香苗
香苗は急いでテレビ局へ向かい、シナリオを手に入れた。ざっとシナリオをめくると、シナリオの提出者は「劉(りゅう)」と書いてある。さらに、シナリオの文中に「ハヌッセン」の言葉も。
一方、料亭では清家を囲んで会合が進んでいた。会合が無事終わり、時計を見ると8時55分。約束は9時だ。清家は裏具へ急いだ。
向こうから香苗が走ってきた。なんとか間に合ったようだ。
走ってきた香苗に、清家が言った。
「今後、あなたには連絡を取らないようにします。あなたのために。前にも言ったように、僕をしっかり見ていてください。僕も、あなたを見ていますから。」
政務秘書官が車に乗るようにと清家をうながした。清家はじっと香苗を見つめた。何かを訴えるように。
車で走り去る清家。立ちすくむ香苗を、清家は車の中からずっと見ていた。何を考えているのか、彼の表情からは何も読み取れない。
謎の女
謎の女は、佐々木の料理屋にいた。スマホで、清家の会見の様子を見ていた。
佐々木が料理を運んできた。
「わー、鯛めし。これ、武智先生が好きだったのよね」
「例の記者が、また探っているようです」
「一度その人に会ってみたいわ」
謎の女は高岡早紀。彼女はいったい誰なのか。やはり、清家の元恋人の美和子なのか。