時効3か月を迎えて、警察も動き出した。柏原と萩原は頻繁にカレー店で働く功一を訪ねてくるようになった。だが、警察を全く信用していない功一は、何としてでも犯人は自分たちの手で捕まえたいと思っている。ゆえに、刑事たちには、弟たちと会っていることすら隠している。
とがみ亭御曹司との出会い
ワインの試食会にもぐりこんだ泰輔と静奈。
戸神行成との出会い成功
とがみ亭二代目、御曹司の戸神行成と偶然出会ったフリをした、静奈と泰輔。今のところ順調だ。
戸神が二人に話しかけてきた。「今の話、もう少し聞かせてほしい」と、名刺を二人に渡した。
「まあ、あのとがみ亭の?そんな方が近くにいらっしゃったと知らず、すみませんでした。」
「いえいえ、お客様の社交辞令でない本音をお聞かせいただければ幸いです。」
戸神はどこまでも紳士だ。
泰輔も名刺を渡した。「宝石商 春日井」だ。
静奈は「高峰佐緒里」。父の転勤でカナダ住まいだったが、現在は京都の大学4年生。社会勉強のために東京に出てきているという設定。(静奈はこのために英語を猛特訓した。)
戸神は、ぜひ静奈に自分の店に来てほしい、そこで直接話を聞きたいとお願いした。
恋心を抱く行成
行成の心は弾んでいた。ワインの試飲会では、仕入れのワインも決まったし、素敵な女性と知り合えた。
高峰さおり。さおりさんは育ちもよく、清楚で、しかも強い意志を持つ眼差しを持つ。
行成はスキップしながら功一のカレー店へ入ってきた。
「これって、恋かも。」
それを聞いて功一は顔をしかめた。面白くなかった。
功一の書いたシナリオには、行成と静奈の恋は入ってくるはずもなかった。物語はうまくいくか?心配になってきた功一だった。
ダイヤモンドのシナリオ
功一の描いたシナリオはこうだ。
宝石商である春日井(泰輔)は、ダイヤモンドを1000万で行成に売りつける。行成は、そのダイヤを静奈にプレゼントする。もちろん、ダイヤモンドはニセモノだ。
かくして、一千万円まるまる懐に入ってくるという算段だ。
「なんか、やる気が出ない。」と静奈。これまでは、復讐という目的があった。自分をだました相手から金を巻き上げるという詐欺的な手法も、相手への憎しみがあったからできたことだ。
だが今回は違う。ただ、行成がとんでもない金持ちだというだけで、人をだましていいものか。しかもとても誠実で仕事に熱心な青年だ。
功一は、「だから、これで最後にする」と言う。「1000万入ったら、これで洋食屋をやろう。3人で。」
時効が迫り、焦る刑事
似顔絵だけが手がかり
柏原と萩原がまたカレー屋にやって来た。
「傘からも、凶器の包丁からも、指紋は出なかった。あとは、この似顔絵だけ。この前摘発したこの男たち、お前の父さんに金を貸したやつらだ。この男たちの写真を泰輔に見てもらいたい。」
いや、連絡も取ってないし、どこに住んでいるかも分からないと功一は答えた。
警官は泰輔がDVD店で働いていることを突き止め、彼に会いに行った。写真を見せたが、泰輔は「どれも違う」と答える。
空振りだと分かった柏原は店を出るが、そのときある男の姿を見た。カレー屋の店主だ。なぜ、彼がここに?
カレー屋の店主は、功一たちが暮らした施設の施設長だった。今は吉祥寺でカレー屋をやって功一もそこで働いている。しかも、功一の弟泰輔の働いているDVD店にも出入りしている。
「ずっと、親代わりだったんですね。」
「でも、なんで弟たちとは連絡を取ってないと嘘をついたのだろう。オレたちはそれほど信用されていないのか。」
約束した「とがみ亭」に出向く静奈
さおり扮する静奈は、行成に約束したとおり、とがみ亭で食事をした。行成は、味はどうかと聞いた。
味はいいけれど、カウンターが気になる。どうしても常連客の雰囲気が、疎外感を味わわせる。それから、あそこの照明の角度がよくない。照明はいち方向から当てると、顔色が暗くなるから。
行成は感心して聞いていた。なるほど、そんなところまで気づいている人なのか。素晴らしい。
行成は、自分がこれからオープンする麻布店について語り始めた。
カップルでも、ファミリーでも、どんな人でも気軽に入ってこられる、温かい店にしたい。自分の店だと思ってくつろげるような、庶民的なお店。
そんな店が行成の思い描いていた理想の店だった。
静奈は彼の言葉を聞きながら考えていた。
「それって、アリアケだよね?うちの両親の店。私、いったい何やってんだろう?」
静奈の心に、モヤっとしたかたまりが生まれてきた。「罪悪感」というかたまりが。
高山から連絡が
高山からメールがあった。会いたいというメール。もちろん、静奈にではなく、「南田志穂」にである。もう二人は、200万のドル建て債券を買った仲だ。結婚の約束もしている(と、勝手に高山は思っていた)。
カフェで会うと、静奈は「カナダに留学する」と高山に言った。驚く高山。なんでカナダに?
「カナダは空気がいいので、世界中から病気の人が療養に来ています。そんな人たちのために。」
「待っています、いつまでも。」高山は涙をこらえながら静奈に言った。
それをじっと見ている男がいた。ホストの一矢だ。
「あれ?カナダに行ったしおりに似ている!でも、おかしいな。いや、彼女はあんなことをする人間ではない。絶対に人間違いだ」
一矢は店を後にした。
危ないところでした。バレなくてよかった。
試食会とハヤシライスと犯人
静奈は、麻布店の試食会に呼ばれていた。今日は貸し切りだ。これからオープンする店のメニューを食べてもらっているのだ。
最後に出てきたのが、ハヤシライスだ。
「どうでしょう。とがみ亭のハヤシライスの味を、完全に再現しました。うん、これなら看板メニューになる。」
おいしそうに食べる行成。ふと見ると、静奈の目から大粒の涙がこぼれおちた。
一方、功一と泰輔は、店の近くに車を停めて、静奈が出てくるのを待っていた。
一台の車が、前方に停まった。そこから出てきた男を見て、泰輔の顔が凍った。
「あいつだ。あの夜、裏口から出ていった男。」
その男は、両親が殺されたときに家から走って逃げた男だった。
「間違いない。」
その男は…
とがみ亭初代「戸神まさゆき」だった。